閑・感・観~寄稿コーナー~
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中村秀明のイタリアだより(2)デモとストのある国に暮して

2026.06.29

閑・感・観~寄稿コーナー~

 日本から届くニュースに戸惑いました。街頭でのデモに対して、過激な行動で迷惑な行為として反感を抱く人が多いのだと聞きました。さらにNHKなどが国会前の大規模デモをほとんど報じないと知り、驚いています。イタリアでデモや集会は日常的な光景であり、社会的、政治的な意味を持った行動と受け止められています。

 私の住むアパートは、ボローニャ中心部のマッジョーレ広場のすぐ近くにあります。その広場では「ガザを救え」という叫びや、イラン系やウクライナ系の市民による戦争終結を求めるデモと集会が定期的に続いています。また夫や恋人らによる女性殺しの続発に憤る人たち、相次ぐ労災死亡事故を糾弾する労働者らも広場に繰り出してきます。高校生によるデモもあります。「私たちの未来を奪うな」とのスローガンで、地球温暖化対策の緊急性や教育予算の増額を訴えていました。

イスラエルによるガザ攻撃に抗議して広場に死体となって「ダイ・イン」する人々

 私も米トランプ政権の暴力的な移民排除活動に抗議する集会に参加したり、人々の輪に加わり「パレスチナに自由を」と声を上げたことがあります。ミラノ領事館の在留邦人向けメールは「遭遇した際には不用意に近づかず、身の安全を確保するよう心がけてください」と呼びかけていますが、これらは過激思想の集会ではなく、暴力的な行動でもありません。市民が自由に参加できる意思表示の機会であり、連帯の場と言ってもいいものです。

女性殺しや女性への暴力の頻発に憤り、広場に押し寄せる人々。プラカードには「ひど
い教育のせいだ」と書いてある

 デモや集会以上に、日本で存在すら否定されているのがショーペロ(ストライキ)でしょう。5〜6月はバカンスシーズンに入る前で、ストが頻発するやっかいな季節です。先日は、友人夫妻と旅行中に2度も全国的な交通機関のマヒにぶつかりました。

 最初のケースでは、日程を変えて移動日を前倒ししましたが、当日になると動いている列車を見かけました。ホームにいた職員に聞くと、「ああ、これは動いているね。運転士も車掌も動かしたかったのかな、天気もいいしね」「次の列車?さあ、それはわからないよ、誰にも。その時刻になってみないと‥‥」との返答。苦笑いするしかありません。2度目の時は、長距離列車の予約を「鉄道会社がストでも運行を保証する列車」に前もって切り替え、移動不能になってしまう事態を避けました。

 ストの理由はさまざまです。このところの物価上昇や軍事費の増大、親米・親イスラエルの外交姿勢、スト権を規制する動きなどについて政府に抗議するものから、人員の不足、業務委託のあり方、乗客の車掌への暴力といった直面する問題を広く知ってもらう狙いもあります。

スト決行を呼びかける公営薬局の薬剤師団体のポスター

 ストを打つのは交通関係だけではありません。司法制度の改革案をめぐって弁護士や裁判官のストもありましたし、学校の先生や公共放送RAIの社員もやります。フードデリバリーの配達員のもストで労働条件のひどさを訴えていました。最近は、24時間開いている各地の公営薬局の薬剤師が8時間ストを実施しました。コロナの感染拡大で重要性が再認識されたにもかかわらず待遇は改善されていない、といった訴えでした。

 ストには、早めの情報収集で対応をとらなくてはならず困りものです。観光客は情報のキャッチも遅れるので、駅や空港で途方にくれている姿がニュースなどで流れ、気の毒な限りです。3年半前に右派のメロー二政権が誕生して以降、さまざまな分野でストを打つ頻度は増えており、「前近代的なやり方」「うんざりだ」という声もあがっています。しかし、労働者の基本的な権利行使だし、イタリアの日常風景だとして冷静に受け止めている人が一般的なようです。何といっても、この国の憲法第1条は「イタリアは労働に基礎を置く民主的共和国家である」の一節から始まるのです。

 デモもストも、社会が抱える課題をあぶり出し、世の中の関心を集め、問題提起する力は小さくありません。現政権も「何の解決にもならない」と言いつつ、軽視できないようです。メロー二首相は最近、トランプ寄りの姿勢を大きく転換させています。勝てると見込んだ司法制度改革の国民投票に敗れて支持率も低下し、来年中に予定される総選挙に危機感を募らせた結果です。その背景には、各地で相次いでいる反トランプのデモやそれに呼応するストがもたらした影響を見ることができます。

 デモは老若男女、さまざまな人が参加しています。学生や若者だけでなく、子どもを連れた家族やベビーカーを押した母親も見かけます。ローマでのデモには70歳は超えていそうな女性の姿がありました。彼女はテレビ局の取材に「それぞれの広場で、それぞれの通りで、みんなが行動しなきゃいけないのよ」と答えていました。

 デモやストによって世の中に波風が立ち、広場や通りに人々の声と熱があふれる。それは移民の私たちにとってもイタリア社会やヨーロッパ、そして世界が抱える問題について、ともに考える大きなきっかけとなっています。

                        (元経済部、中村 秀明)