閑・感・観~寄稿コーナー~
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新刊紹介 毎日新聞大阪本社編 橋爪紳也編著『写真図説 占領下の大阪・関西』(藤田 修二)

2022.12.12

閑・感・観~寄稿コーナー~

「占領下の大坂・関西」

 毎日新聞大阪本社情報調査部が保管している膨大な写真資料のうち、大阪大空襲を含む蔵出し写真400点を厳選した写真集である。2022年6月の刊行だが、最近になって目を通して大変印象深かったのと、3代にわたる情報調査部長と部員の努力に敬意を表して、遅まきながら紹介する次第。

 この本を企画した阿部浩之・元情報調査部長によれば、近年占領期の写真はかなり公開されるようになったが、米軍撮影による東京かいわいのものに偏り、占領下の大阪・関西を描いたビジュアル資料は、点数自体も公開の機会も極めて少なかったという。また、プレスコードという制約があるなかで「占領下の社会を捉えた日本側の視点を重視した」という。

 占領軍の売店(PX)となった大阪市のそごう心斎橋店など、関西の接収施設の写真をこれほどたくさん載せた書籍は本邦初のようだ。私個人的には、1947年関西を巡った昭和天皇が米軍人と気安く握手する様子(最高司令官マッカーサーとは横に並んで直立不動だった)、宮本輝さんの『泥の川』に登場する水上生活者への国勢調査の模様(1947年)が興味深かった。水上生活者はいつまで存在していたのだろうか。

 編著者の橋爪紳也・大阪公立大学特別教授は、「従来、大阪大空襲や占領下の大阪や関西を伝える写真として、これまでにさまざまな媒体で使用されている著名な写真のうち、毎日新聞が初出であるものが何点も確認できた」として、著作権の意識が厳密でないまま一般に流出した写真が多くあるようだと指摘している。

 創元社刊、2970円。こういう仕事も立派なジャーナリズム精神の発露だと思う。たくさん売れてほしい。毎日新聞出版でないので、あまり宣伝・広告が行き届いていないのが残念だ。

                            (元社会部・藤田 修二)