2025.02.17
閑・感・観~寄稿コーナー~
右脇腹後方付近に違和感を感じていたため、念のためかかりつけ医で検査を受けたところ、肝臓に影が有るので精密検査を受けるよう勧められました。結果は肝臓ガンである事が発覚。15時間半に及ぶ大手術が無事に終了した後、主治医から告げられた言葉が「3年生存率50%、5年生存率30%です。まずは3年生存率50%を乗り切れるように頑張りましょう。再発すれば手術は不可能です」でした。社会人になって以来50年以上休肝日なしに飲み続けた報いかもしれません。
再発までの時間はどれほどかな? 終活で何をすべきなのか、身体が動く間に済ませておくべき身辺整理や断捨離は間に合うのか、お大師様にすがって遺された家族に迷惑をかけないようにしておこう、という思いしかありませんでした。
お遍路への興味は以前からありましたが、ガン再発までの間に済ませたいとの思いから、巡拝を実行する事にしました。植えていた多くの桜や梅、門被(もんかぶ)りの大木の伐採や、前栽の縮小など、体力勝負の身辺整理をしながら四国遍路の準備を進め、終活の一環としてはご先祖様の墓じまいだけは済ませました。
巡礼の方法をドライブお遍路にした理由は、自身の脚力を考慮してのことです。20年以上前になりますが、両膝
の内視鏡手術を2度ずつしています。俗に言う変形性膝関節症ですが、残念ながら膝の痛みは解消されないままでした。歩き遍路は勿論無理。バスツアーの遍路にしても、健常者の足手まといになっても申し訳ないので、時間に縛られずに観光地を巡りながらの「のんびりきままなドライブお遍路」にする事にしました。
必要なお遍路用品を一式購入。納札や写経等の事前準備が大変でした。八十八ヶの札所と満願行程、お大師様ゆかりの洞窟等、予備を含めると一行程につき200枚の写経や納札が必要となります。慣れない筆ペンと見慣れない漢字に悪戦苦闘しながら、一日二枚のペースで写経を続け、順打ち・逆打ちと別格霊場を含めた総枚数は480枚にもなりました。
読経の練習も妻と二人で毎日行いました。開経偈から奉納経祈願文や心経奉賛文など、作法にのっとり、一切手抜きをしない事を前提にしたため、読経終了まで約30分。(本堂と大師堂で唱えるため)一札所だけで一時間を費やす事になります。一日にどれだけの札所を打つことが出来るのか、何日かかるのか心配でしたが、お賽銭用に大量の一円玉と五円玉も準備して、巡拝決行の日程調整を行いました。
お大師様と必ず会える様にと順打ちでは1番~88番、逆打ちでは88番~1番へと順番通りに巡拝する。この事を前提としたため、隣接する番外札所を通過したり、大きく迂回したりする事も。道の駅マップとドライブお遍路の冊子を携え、道すがらの観光地や美味しい物巡りも併せたことで、走行距離が予想以上に長くなりました。また、カーナビ便りが失敗でした。機種が古かったので、旧道や狭い道を案内されることが多くあり、無駄な時間を費やす事になり、急遽カーナビを買い替えるという余分な出費が発生。
札所には駐車場が隣接している所も有れば、駐車場から急な山道や石段を一時間以上、または100段200段を超える階段を上がらなけらばならない札所が何か所も有りました。なんとか克服しながら巡拝していましたが、ある札所に「是より333段」の石碑が。“マジか~堪忍してくれ~足がもたんぞ~!”思わず叫び、山岳霊場特有の厳しさを痛感させられました。
夫婦そろって膝が悪いので、歩く時間も健常者の倍以上。急な坂道や階段を下りる時は後ろ向きの不甲斐ない姿を晒して少しずつ。「おじいさん頑張ってくださいね」「気をつけてね」等々、優しい励ましを多く受けながら乗り切ることができました。
厄除け札所では階段一段毎に願いを込めながら一円玉を手向けましたが、人それぞれの多く祈願の賽銭が手向けられていました。祈願成就を祈るばかりです。
札所巡拝の道中は、次の札所まで5分余で移動出来る所もあれば、100㎞以上も移動する長距離ドライブ有り。ケーブルカー有り、ロープウェイ有りの、山間部の素晴らしい眺望。昔からの風情を残した小さな温泉湯治場で疲れを癒しながら巡拝。四万十川源流散策へも。透きとおる仁淀ブルーに魅了されながら、各所の沈下橋巡り。雄大な太平洋の海岸線。ホエールウオッチングは残念ながら出来ませんでしたが、グラスボートで美しいサンゴ礁と餌付けされた熱帯魚の群れが観られました。時間の許す限り、もっと走り回りたいと思いました。
楽しみの一つにご当地の美味しい物。うどんにお蕎麦に山菜料理や郷土料理。道中いたるところで、のぼりがたなびいています、海鮮物は丼や皿鉢料理で。回転すしのネタの新鮮さと大きさにびっくり。
特筆すべき食べ物はシラス漁師直営店でとれたてのドロメ丼物、目前でいぶされ香りを纏ったカツオの藁焼き、四万十川のウナギ屋では「本日天然もの入荷」の張り紙が。せっかくなので天然ものを白焼きで、併せて川エビとアオサの天ぷらを美味しく頂戴しました。昼飯に立ち寄った食堂のメニューに「マグロの心臓」を発見。これはと「ばかりに注文。焼き肉のミノのような固い食感に、「これは珍味じゃ!」と思わずうなりました。その他いろいろ、名物にうまい物「アリ」でした。
勝手きままなお遍路に費やした日数は2年半にわたり、京都・東寺と高野山への結願行程も含め、ッ自宅発が23回、車泊・ホテル泊併せて18泊。走行距離1万1240㎞。ガソリン・高速代34万3000円。高速代は深夜や土日の3割引きを利用して経費削減を図ったつもりです。納経帳・納経代18万2100円。御影額装・別格散華額装代12万1800円。ホテル代22万1800円。その他駐車場代、飲食代、入浴代等約100万円前後。ちなみに、別格20霊場巡拝の方が厳しかったです。
私事の追記。
術後五年が無事クリア出来ました。もう一度元気に歩き回りたいとの願いから、今年(2025年)5月に右股関節を人工関節に置換、それから半年後を目途に膝関節を左右同時に人工関節への置換手術を予定、一気にロボット化を目指す事が決まりました。お大師様のおかげでここまで生きながらえたので、もう一度お大師様にすがってみます。私は無神論者ですが、手術が成功すれば魚釣りやキャンプなどアウトドアレンジャーを存分に楽しみます。
同行二人。信じる者は救われる。
(元発送部、川原 勇)