2023.11.21
閑・感・観~寄稿コーナー~
OBアルバイトを含め47年間務めた毎日新聞を卒業後8年間、行政書士を務めました。新聞記者とは全く異質な仕事でしたが、少しのミスも許されないという同じ緊張感とともに、「誰かのために役立っている」という実感を持つことができました。
新聞記者にとっての「誰か」とは、多くの場合が地域社会とか社会問題という顔の見えない不特定多数の人でしたが、行政書士の業務では個人、目の前にいる「その人」が対象でした。特に私は金(収入)になる企業法務ではなく、自治会・町内会の法人化など身近な地域生活関連の事柄や相続・遺言書作成、離婚など、個人が抱えた問題を中心に扱いましたので、一人一人の方のプライベートな問題に深く関わってきました。
とくに2017(平成29)年4月から6年間担当した橋本市社協の「まちの法律家なんでも相談」では、さまざまな相談を受けました。「なんでも」と銘打ちましたので、行政手続き等とは異なった個人の困りごと、悩みごとなどまさに「なんでも」相談され、行政書士としての知識だけでなく、長年の新聞記者としての経験が大いに役立ちました。
同時に、人々が困っていることを解決しようとすれば様々に法律が絡んでくる、私たちが生活するには様々なかたちで法律知識が必要になってくるのだなあ、と感じました。そんな相談に的確なアドバイスができた時には達成感がありました。それとは逆に、どんなに同情しても法律知識があっても、私たちがしてあげられることには限界がある、と感じるような個人的な問題も少なくなく、そんな時はドッと疲れました。あちこちに相談したうえで私のところにたどり着いたという人もいました。持てる限りの知識や知恵を絞ってアドバイスをしますが、その人が本当に気の毒で、私も数日間はつらい気持ちで過ごすというケースもありました。
仕事の依頼や相談には様々の事があり、いつどんな内容の事柄が飛び込んでくるか分かりません。単なる法律だけでなく、具体的な行政手続きなどの知識が必要なので、行政書士を始めてから本当によく勉強しました。専門書は高いので、本代にはすごくお金を使いました。様々な活動費や行政書士会の年会費、行政書士保険の保険料も安くはないので、この8年間を通じて、収入と支出はトントンだったのではないでしょうか。企業法務をやって積極的に営業すれば収入に結び付くのですが、営業というものが苦手な元新聞記者としては……。もともと新聞記者の次なる生きがいを求めて始めた行政書士でしたから毎年末、青色申告決算書をまとめながら「赤字を出さないだけでも良しとしよう」と。
でも、専門書の勉強は本当に楽しかった。若いときにこんなに勉強していればなあ、とつくづく思いました。そして、「世のため」とまではいかなくても、「人のため」に役立つことができたという満足感が、この8年間頑張った私自身への褒美だろうと思います。県行政書士会長からの感謝状ももらいましたので、まずまずであったと自画自賛しています。
昨年末、任意後見受任者(成年後見)として3年余りお世話した独り暮らしの女性が安らかに旅立ちました。その葬儀や遺産整理、相続人への引渡しなど遺言執行者としての相続業務が完了したのを機に、2023年9月末をもって行政書士を廃業しました。体力もさることながら「脳力(のうりき)」の衰えはいかんともしがたく、事務処理などでの判断ミスや作成した文書のチェックミス等、顧客に迷惑をかけるようなことを起こす前にと決心しました。「もったいないね」と言ってくれる同僚や先輩もいましたが、「立つ鳥跡を濁さず」の心境です。
(元橋本通信部、上鶴 弘志)