2021.11.07
閑・感・観~寄稿コーナー~
毎日新聞社を定年まで勤め上げ、次に目をつけたのが、毎日ビルディング(警備)。順風満帆とは言えないけど、それなりに充実した日々を送らせてもらっていたが、63歳を待たずして退職。
さあここからゆっくりした人生も悪くないと思っていたが、特にすることもなく、ただただ「毎日が日曜日」という感じで過ぎていく毎日。刺激もなく、唯一の趣味であるスーパー銭湯(サウナ)通いだけが日課となっていた。
仕事の後のビールがうまいと思っていたが、風呂上り、汗を流した後のビールも実に美味しい。ついつい飲みすぎ依存症寸前に。ただその一方で手持ちぶたさ感も拭えずついつい、タバコの吸う本数も増えていた。銭湯・ビール・タバコ、暇を潰すにもお金がかかる。何気なく、自分の小遣いくらいは稼ぐかとふと思い立った。
職安へ足を運ぶも中々思うように事が進まず、良い返事がもらえない。そんなとき、「サービス付き高齢者住宅」だけが色よい返事で採用が決まった。
未知の世界、どんなものか最初は期待に胸が膨らんだが、その期待は一瞬で打ち砕かれた。「夜中に家へ帰ると徘徊する人」「寝られないと連続コールする人」「トイレとコールする人」・・・今までとは何もかもが違っていた。最初に聞いていた雇用条件とは違う仕事をさせられる日々、施設長にも訴えるも現状は変わらない。不満は募るがすぐに辞めるのも違うと、入居者さんへ笑顔を向ける日は続いた。
ただそんな日々の中で同じ宿直で採用された5人のうち3人は辞め、新たに採用された方も次々辞めていくのが、お決まりに。ついに限界に達し68歳で辞めることに。
またしばらくの間、ただただ「毎日が日曜日」の日々が続いた。最初はサウナ通いだったが、そこに図書館で新聞を読むのも日課に加わっていた。
そんな日々の中、普段は「日経」を読まないのに、何故だがその日だけは手にした自分がいた。何気なくページをめくっていると、中面の求人欄に目が留まる。「兵庫県信用保証協会」。ただどうせここも年齢で引っかかるのだろうと、とりあえず条件を見るより前に年齢のところを確認した。
そこにはなんと年金受給者も歓迎と書いてあった。まだ受かってもいないのに、何故だか何とも落ち着かない妙な気分になった。
一呼吸おいてから、条件についてじっくり確認を行った。そこには「契約職員募集」「年齢・学歴・資格不問・庶務」「三宮。勤務8時~4時30分」「社会保険(厚生年金基金あり)、土日祝・週1日休み、14~15日勤務、年休11日、夏期・冬期休暇(各5日)人間ドック(専免)交通費全額支給、月給12万円」と何とも嬉しい内容が記載されていた。
その時まで働くという思いは薄れていたのに、急にやる気が湧いてきた。落ちて元々、まずは書類選考の応募へ乗り出した自分がいた。結果は通過。何人くらいの応募がいるかわからないまま、面接会場へ向かった。すでに3人が順番を待っていた。ドキドキしながら順番を待つが、時間になっても呼ばれない。前の面接が長引いているのであろうか、既に良い人が出ているのではないか緊張だけが残った。ついに自分の番が来た。
席に着いた瞬間「係長・課長・理事・副部長」の面々から挨拶が始まった。緊張が解けないまま、質問が飛び交う。応募したきっかけや通勤時間、給与面等。その中でも特に印象に残ったのは「働く職場が自分より年下(3~5歳下)」「雇用となっても1年のみ(現地点で年齢69歳)」という発言。ただでさえ、距離が離れていて不利だと思っていたのに、ここでも年齢の壁が大きくのしかかる。その後も後に自分より若そうな人がいるのを見て、また落ち込みながらその日は帰路についた。
絶対無理と思っていたが、2日後、午前10時に電話が「採用が決まりましたので、入社に関する書類を送りますので宜しくお願いします。」と嬉しい知らせが入った。そこからキツネにつままれたような信じられない日々を過ごすことになったが、暫く経って入社に関する書類が送られてきて初めて実感が湧いてきた。
そこにははっきりと「4月1日入社式10時」と記載されていた。スーツなんて定年式以来袖を通すことがなかったため、入社式当日は落ち着かず何度も鏡を見ては七五三のような気分になった。
その日は新入社員6人、警察OB1人と僕。理事長が辞令を言い渡した後に、信用保証協会の役割を次のように述べた。
「全国信用保証協会は47都道府県にあり、一つが兵庫県信用保証協会(県下に7カ所支所)で中小企業・小規模事業者が金融機関からお金を借りる時に保証人の役割を果たしている公的機関です」と。
式が終わり、いよいよ配属先へ。これからお世話になる先輩方と簡単に挨拶を行うが、周りはしきりに私の年齢・金融機関に関係があるのかと職歴に関して興味をもたれ、こちらから仕事について質問するはずが、逆に質問攻めにされてしまった。
ようやく業務の話になり、主な業務は銀行協会で保証書の受け渡しが主な仕事ということが分かったが、ミスは絶対出来ないと言われ、緊張が走った。だがその緊張を察してか、「他はたいした事がなく、セコム(受け付け)運転手の食事時間に変わる位です。たまに法務局、銀行、郵便局へ行く時があります。詳しくは業務要項を読んでください」と説明を付け足しされた。
実際の仕事に関しては、元々性格が大雑把に不器用な性格のため、最初の内は注意されっぱなしで、このままで大丈夫かと思うときもあったが、周囲の人達の温和な性格に支えられ、難なく契約期間(1年)を迎えることができた。
有り難いことに上司の計らいで1年間延長(2022年3月31日迄)して貰うことになった。今ではスーツにすっかり慣れ、決められた時間に出社退社と70歳で最後の悪あがき、「サラリーマン」になりました。
(元編集制作センター支援G・小薮 修)