2025.12.21
閑・感・観~寄稿コーナー~
首都クアラルンプール(KL)の観光名所の一つ、ペトロナス・ツインタワーは、国営石油会社ペトロリアム・ナショナル、いわゆるペトロナスの本社ビルです。街のランドマークであるだけでなく、産油国マレーシアを象徴する存在になっています。

前回も触れたようにガソリン価格が安く抑えられているのも産油国であることが背景にあります。石油に関連し、政府は自動車産業も戦略的に育成を図ってきました。1980~90年代にダイハツとの合弁によるプルサハアン・オトモビル・クドゥア(プロドゥア)と、プロトンというマレーシア独自の車メーカーが設立され、国民車として広く親しまれています。
これら国産2社に加え、街中で感じるのが、車の種類の多様さです。政府が現地組み立て車に優遇措置を導入しており、トヨタ、ホンダ、日産もマレーシアに組み立て拠点を構えています。また、中華系住民が多いこともあり、奇瑞汽車(チェリー)や長城汽車など多くの中国の車メーカーが進出しています。
さらに政府は電気自動車(EV)普及にも力を入れており、国産2社も今年、相次いで低価格のEVを発売。新車の一つの目安である10万リンギ(350万円強)を下回る初のEVとして、好調な売れ行きをみせています。EV専業メーカーである中国・比亜迪汽車(BYD)もシェアを伸ばしています。

日中は暑いこともあり、歩きたがらない国民性で、とにかく車中心社会のため、残念に感じるのは歩道がバリアフリーでないこと。歩道が狭いうえに凸凹も多く、非常に歩きにくくなっています。運転をしているだけでも、その国のさまざまな文化的背景を考えるきっかりになります。
交通事故の多さも車社会の課題です。私のマレーシア人の同僚の家族も10月にバイクで大事故に遭い、2週間意識不明となりました。その後、奇跡的に一命をとりとめ、順調に回復し今月退院できましたが、ICUで面会した際は、正直非常に厳しい状況でした。
統計によると、2023年の交通事故件数は年間約60万件、うち死亡事故は1万2000件。東南アジア諸国連合(ASEAN) 10カ国の中で、タイに次いで事故が多い国になっています。交通事故は約50秒ごと、2時間に1人が交通事故で命を落としている計算だそうです。同僚家族のケースのようにバイク事故の多さが死亡率の高さに影響しているようです。
日本では交通事故は年間約30万件で、死亡者数は近年3000人を切り、2600人程度と過去最少レベルとなっています。
私は結局、安心して運転できることを優先し、運転し慣れた日本車の新車を選択。そして車を持ってみて改めて芽生えたのが、マレーシアになるべく長く住もうという決意のようなものでした。それまでは、早期退職して転職した先がたまたま海外だった、というような感覚で、「海外移住」という言葉にどこか違和感もありました。コロナ以降、どこでも働ける環境が整いつつあるとはいえ、やはり海外に住むのはビザが必要で、その資格を得るには働くのが有効です。

一方で、マレーシアでも基本的に定年は60歳とされており、あと何年働けるかわかりませんが、早期退職という決断をしたからこそ、得られた機会でもあります。もともと旅行などで訪れたこともなく、正直あまり興味もない国だったのに、ふと目にした求人広告に魅かれて、思い切って飛び込んでみたマレーシア。現在の生活に満足しているだけに、事故などで後悔することがないよう、安全運転第一に日々ハンドルを握っています。
(元広告局、大道寺 峰子)