閑・感・観~寄稿コーナー~
SALON

毎日文化センターでニュース検定の講座講師やっています!(中島 章雄)

2021.11.05

閑・感・観~寄稿コーナー~

☆きっかけは後輩からの電話

  32年間務めた毎日新聞社、最後は大阪本社編集局次長で退社し、和歌山放送社長に転身、自宅を和歌山市内に構えました。3期6年で同社社長を任期満了退社、2年前まで毎日新聞大阪本社2階の毎日文化センター社長として和歌山から通勤していました。

 文化センターに移り、マスコミとは違う新たな職場で、バタバタしていた2018年7月、大阪社会部遊軍時代同僚で後輩の、小島明日奈・毎日教育総合研究所社長(現・毎日新聞出版社長)からの電話が鳴りました。「中島さん、ニュース検定の講座を毎日文化センターで開いてください!講師は、政治部と大阪社会部での豊富な取材経験を生かして中島さんにお願いします!そのために、ニュース検定を受験して合格してくださいね!」――と、昔と変わらぬ若干巻き舌で、妙に元気で、少し大きな声が耳朶に響きました。

 新しい講座を自分なりにも作りたい、と思っていたこともあり、この電話をきっかけに毎日新聞社が主催する「ニュース時事能力検定試験(N検)」に合格するための「合格必勝直前講座」を毎日文化センターに開設、受講生を集め、その講師を引き受けることになりました。

 

☆ニュース検定って何や?

 新聞やテレビ・ラジオのニュース報道や時事問題を読み解いて活用する力を養い、認定するニュース時事能力検定試験・N検は、2007年度のスタートから今年度で15年目です。これまで毎日新聞社が中心となり全国の地方新聞社・放送局を巻き込んで主催者連合を作って運営してきましたが、19年度から朝日新聞社も主催者に加わり、入試や就職に役立つ検定としてより広がりを持った検定になってきています。全国の会場で年間4回、実施されており、今年6月の検定で累計志願者数は延べ50万人を突破しました。

 試験は1級5級に分かれ、大学生・一般社会人向けの1級▽高校生・大学生・一般向けの2級▽中学生・高校生・大学生・一般向けの準2級・3級▽小学生・中学生・高校生向けの4級▽小学生・中学生向けの5級があります。先行き不透明や時代だからこそ、社会の出来事を多角的・公正に理解、判断する力が必須だとし、中学、高校、大学入試で時事を扱う問題が増えているほか、全国約400の大学・短大の推薦入試やAO(アドミッション・オフィス)入試でニュース検定の合格が優遇・評価されています。

 就職活動では、エントリーシートに記載することで時事力が評価されます。また、社会人のキャリアアップや生涯学習の教材としても活用されています。また、社会経験を積んだシニア世代が引退後に悠々自適の生活の方も多いですが社会に参加するため生涯学習としてニュース検定に取り組めば、頭の体操になります――というN検と付き合い初めて、4年目になります。

ニュース検定のロゴ

☆とにかくN検に合格しなければ!

 最初は、後輩から頼まれた以上、何とかしようと思い、また何とかなると思っていました。大阪社会部時代は堺支局、街頭班、大阪府警・捜査2課、遊軍、市役所などの持ち場で、事件から行政、社会問題、文化財取材や原発取材、調査報道で経済問題や医療問題、難民取材などを取材してきた経験と知識がありました(いや、正確には「あると思っていました」)。

 また、39歳で東京政治部の辞令が出て、東大卒業後、16年ぶりに「花のお江戸」に舞い戻り、永田町・霞が関という日本の政治・経済の中心で無我夢中で取材しました。当時はまだまだ根強かった「大阪社会部出身者」への「政治部帝国主義者」の政治部員や幹部からの「いじめ」ともいえるような「差別」にあっても屈せず、取材に走り回って、自治省(現・総務省)クラブキャップ、自民党・平河クラブキャップ、外務省・霞クラブ、首相官邸クラブキャップ、政治部デスクを歴任し、経験と人脈を培ってきた蓄積がある、と考えていたからです。実際に、和歌山放送社長時代にもそれまでの取材経験など役立つことが多かったと思っていました。

 社長でしたから、講座の開設は簡単でした。講座名はN検合格のための「直前合格必勝講座」と命名しました。課題は講師を名乗るために私自身がN検に合格する必要があることでした。18年度の第1回目の試験はすでに6月に終了し、第2回目が9月初旬に迫っていました。講座は第3回目のN検(11月実施)に合わせて10月に開講することとし、9月のN検で私自身が2級に合格して、直前合格講座の講師を務めて開催。11月の第3回目のN検で1級に合格して、継続して講座を続けることを目指すことにして、受検勉強を始めました。

 検定問題は「政治」/「経済」/「暮らし」/「社会・環境」/「国際」の5分野から出題され、計45問を50分間で4択からのマークシートで正解を回答する方式で、1級は45問のうち4問が記述式。各回検定問題は実施日の約1カ月前までのニュースを踏まえた内容で、100点満点で1級は80点程度、2~5級は70点程度が合格ラインとされています。

21年度版ニュース検定の公式テキストと問題集

☆社長業と受験生の両立は厳しかった!

 和歌山放送社長への転身を当時の大阪本社代表から言い渡された時に、私は、友人の公認会計士・税理士に手ほどきを受けました。そして推薦された本、「決算書の読み方」「経営分析入門」「ほんとうにわかる経営分析」「社長なら『財務3表』のここを見ろ!」「最新中期経営計画の基本がよ~くわかる本」「最強の『経営企画部』」」「新規事業立ち上げの教科書」など、を読み漁りました。まあ、厳しい会社でしたが、なんとかかんとか、黒字化して、任務をほぼ達成した、と思いました。

 しかし、次に任された「毎日文化センター」は、古きよき時代の毎日新聞社が、社会貢献のために設置した会社がそのまま手付かずで存在する「貴重な存在」の会社でした。厳しい経済情勢のために、公益性の高い放送会社ですら、倒産の憂き目も見かねない「民間会社」の和歌山放送では考えられないくらい、収益のこと、会社経営のことをほとんど無視した会社でした。

 創業当時からの慣行通りに運営されて続けてきた会社だったのです。と、その社長業を務めながら、受験勉強。ただ、新聞社と違って、文化センターには、本当の「夏休み」、つまり会社が閉まって出入りできない、休みが1週間、あったのです。この間を勉強時間に充てるとともに、和歌山―大阪・梅田間の通勤時間が往復で約3時間あり、この時間を有効活用し、家では、家内に頼んで問題集から問題を出してもらうなどして5分野の学習をしました。

 この間、文化センター社長としても、赤字体質脱却のため、外国人英語講師と直談判して日本人講師並みの給与体系にしたり、受講生数に見合った報酬以外に創業時の好条件(受講生報酬以外に別途高額の顧問料支払い)のままの日本人講師とは、雇用条件にあった創業時の好条件をチャラにしていただくように交渉したりと、一か八かの交渉事をこなしていきました。

 そして幸い、2級、1級と無事、予定通り合格することができ、これまで12回の直前合格必勝講座の講師を務めています。

コロナ流行前、20年度の直前合格必勝講座で熱心に講義を受ける受講生のみなさん=毎日文化センターで

☆老若男女の受講生と共に

 10月24日、N検の本番に対応した直前合格必勝講座を開催しました。これまで、たくさんの老若男女の受講生が受講してくださいました。文化センター全体の受講生は、超高齢社会を反映して高齢者が多く、直前講座も同様です。しかし、入試や就職に有利、高校など学校全体で受検するところもあって、高校生や大学生が他県からも大阪の毎日新聞社まで出かけてきてくれるケースも多くありました。

 高校生と60代、70代の受講生を相手に受検のテクニックを伝授するのは、なかなかの難物でした。その中の一人の例を紹介します。この方はこれまで複数回(10回に近い回数です)、直前講座を受講していただいた70代の男性で、6月の試験で2級に合格、今回の講座にも参加していただき1級目指す決意を披露してくださいました。

 男性は、「中島講師のこの講座をきっかけにN検に取り組み、少しずつニュースや問題の背景にあることが分かるようになり、ニュースの意味が理解できるようになってきました。それでも2級の試験はなかなか大変でしたが、講座終了後もメールを使っての指導などでも丁寧に教えていただき、合格できました。引き続き1級に挑戦していきます」と語っていただきました。

 それを聞いた他の受講生から拍手が起こりました。この方は、最初のころはメールもあまり使えず、苦労してなんとかやり取りできるようになったのです。その後は、次々と質問をいただくことになり、基本的な質問に対して、いかに分かりやすく回答するか、理解していただくにはどう表現すればいいか、など私自身も基本から再確認し、詳細に言葉を尽くし、時には図表なども使って解説・説明するテクニックを身に着けることができた、と思っています。自分のことのように本当に合格できてよかったと思っています。これから1級合格まで、全力でサポートしていくつもりです。

 昨年の講座で原子力発電についての問題を取り上げて解説した時に、「原発からは使用済み核燃料が出ますがその最終処分方法が決まっていません。よく、トイレのないマンション、という表現が使われます」などと問題点を説明しました。すると20代の女性受講生からは「青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場が稼働すればプルトニウムは減るのでは」との質問メールがきました。

 私自身、記者時代には原発には関心があり、青森県六ケ所村の日本原燃株式会社が運営する「六ヶ所再処理工場」や、高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発を行っている北海道幌延町の日本原子力研究開発機構の「幌延深地層研究センター」を実際に訪れて取材した経験があり、それを基に当局側のわかりやすい資料をもとにして丁寧な説明を返信したところ「とても詳しく解説して頂きありがとうございます。おかげで原子力発電の基本的な仕組みが理解出来ました。原発を稼働することで生成されたプルトニウムは再処理をして核燃料として再利用できるが、発電と再処理を繰り返すたびにプルトニウムの量が増えてしまう。それが問題なのですね」などと返事がありました。

 講座講師を務めるためには、公式テキストと問題集を完全に理解しどんな質問にも答えられるように準備することが必要です。初年度は自分自身が受検するため、上記のように家内に何時間も付き合ってもらい問題集から問題を口頭で読み上げてもらい、それに答えるという作業を繰り返すなどしました。その後の3年分のテキストと問題集は毎年3月に発売されてから5月の直前講座までの2カ月間に読み込み、学習するのは結構骨が折れました。

 今年5月の直前講座では、そうした事前準備の中から新たな発見がありました。それは北方領土問題でした。90年代の後半、私は橋本龍太郎政権下で、それこそ大阪から来て外務省での取材経験もないのに外務省霞クラブキャップとして国後、択捉、歯舞、色丹の4島返還問題を担当。しかし当時、外務省の「ラスプーチン」と呼ばれた人物となぜかウマがあい、日露交渉の特ダネを取ることが何度かありました。

 それで、21年度版問題集の問題です。サンフランシスコ講和条約関連の問題があり、正答の選択肢はすぐに分かったのですが、間違いの選択肢の「正解と解説」には「現在の日本政府は『北方四島は千島列島には含まれない』との立場ですが、条約批准の国会で千島には国後島、択捉島が『含まれる』と答弁。鳩山一郎内閣でソ連との平和条約交渉が始まると、千島に国後、択捉は『含まれない』とする政府統一見解をまとめました(1956年)」とありました。この解説によると、かつて日本政府は「北方領土に国後、択捉は含まれない」と国会で答弁していたことを明記しています。

 私は講座では「2018年に1級に合格してこれまで4冊のテキスト、問題集をすべて解いてきましたが、この部分の北方領土についての記述は初めて出会いました。国会でこのような複数の答弁があった当時はサンフランシスコ講和条約締結前後で、条約成立で日本の主権を回復させることが最優先課題で、占領下での政府答弁が制限されていたなどの事情があったようです」などと解説しました。その後、1956年2月にこうした答弁が国会で正式に取り消されていたことも説明。さらに21年版N検1・2・準2級公式テキスト25ページに以下のような記述、具体的には「(北方領土の四島は)日本固有の領土で、外国の領土になったことは一度もない」があり、私は「これが現在の日本政府の見解ですが、この見解の背後には説明したような背景があり、そのために日露交渉が進まないことの原因とも考えられます」と説明しています。

 講座で私は「正しい選択肢を選び学習するだけではなく、間違っている3つの選択肢のどこが違っているのかまでしっかりと学習してくださいね」と口を酸っぱくして話していますが、それは私自身への戒めなのです。実際に、霞が関の外務省内で、私自身が日露間の北方領土問題を取材していた当時、もう少し取材を深めていれば、もっといい記事が書けたのに、と感じて、自分自身の取材不足を反省することがあることも、ニュース検定の講師をしているからこその貴重で新たな発見だと思います。

 そんな苦い経験のうちで大きなショックを受けたのが、旧優生保護法です。講座でもN検の問題として詳しく取り上げて、問題点を指摘していますが、本当は内心は忸怩たるものがあります。おさらいすると、ナチスの優生思想の流れを受けて優秀な能力を持つ者の遺伝子を保護すべきとして、日本では1948年、議員立法で優生保護法が成立。遺伝性疾患や精神・知的障害などがある人への不妊・中絶手術を認め、本人の同意が不要な強制手術も実施された「超悪法」問題です。この悪法、1996年に障害者への差別的条項を削除して母体保護法に名称を変えて改定されました。96年といえば私自身、政治部在籍中でした。基本は国会に提出された法案を所管する役所担当の記者の仕事ですが、問題意識があれば私自身、気が付いたのに、と今でも思います。

☆人生100年、 再教育に光を感じ、健康長寿の人生を!

 人生100年時代、と言われるように、私たちの寿命はどんどん延びています。健康で健やかに、長寿を全うしていく人生を、と私も思っています。大阪社会部時代は、若かったこともあったのか、体重は「太っている」程度でしたが、政治部に行ってからは、大阪時代以上の暴飲暴食がたたって、首相官邸キャップ時代に最大体重が120㌔になっていました。朝、6時にタクシーで朝駆けに出て、夜中は1時過ぎにタクシーで帰宅。土日も仕事で国会や自民党本部、または政治家に同行して地方出張が続きました。政治部から大阪社会部転勤してきてからは左膝痛がひどくなり、右膝も徐々に悪化。そして、毎日文化センター社長を退任した2年前、左膝を人工関節にする手術を行い、今年夏、今度は右膝も手術のため53日間入院していました。

 今、私は、11月末まで開催される「紀の国和歌山文化祭2021」企画会議議長、和歌山県文化賞選考委員会委員長など公的な仕事を複数務めています。地域貢献のためにこれからもできることはどんどんさせていただこう、と考えています。高齢の受講生の再教育にまい進する毎日文化センターで、私がN検直前講座の講師を続けるのは、頭を活性化させるための手段でもあります。これからもできるだけ長く、地道に世の中の動きを追って、講師を続けていきたいと思っています。

                            (元編集局・中島 章雄)