2023.10.17
先輩後輩
原爆の被害がどこまで広がっているのか。「外縁」は分からないのですよ――。広島原爆の取材に関わるようになった20年ほど前、当時の原爆資料館長にそう言われた。そのときから、市街地から遠く離れた山里にまで降った「黒い雨」の被害を意識してきた。
コロナ禍で取材に出かけるのも不自由だった2020年春、私は3度目となる故郷・広島への異動で支局長として赴任した。その時、黒い雨を浴びた人たちを訪ね歩いていたのが入社4年目の小山美砂さんだった。山あいの集落に幾度となく車を走らせ、丁寧に証言を聞き取り、膨大な資料を読み込み、研究者や支援者とは時に激しく議論し、時の経過とともに遠景に去っていこうとしている真実を突き止めようと奮闘していた。
2021年7月、広島地裁は黒い雨の被害者を被爆者と認定するよう国側に命じる画期的な判決を出す。1年後、広島高裁は国側の控訴を退け判決が確定。長く被爆者援護法の枠外に置かれていた黒い雨の体験者たちは「被爆者」と認められた。
唯一の戦争被爆国と言いながら核被害を過小評価し、救済を求める声を受け止めるまでにどれだけの歳月を費やしたのか。放射線被害の実態に真摯に向き合わない姿勢は、福島の原発事故被害の切り捨てにもつながっている。
いまはフリーに転じた小山さんが毎日新聞在籍時の取材を基に執筆した「『黒い雨』訴訟」(集英社新書)は、日本ジャーナリスト会議が選ぶ2023年度の第66回JCJ賞に選ばれた。小山さんは広島に足場を置いて原爆被害の実相を追究し続けている。上司と部下という関係でも同僚でもなくなったとはいえ、ヒロシマを追う「同志」として心から祝福したい。
(社会部専門記者、宇城 昇)
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