2023.07.10
先輩後輩
2002年4月に55歳で上智大学新聞学科の教授に転身して以来、研究仲間とジャーナリズムに関する本をいくつか共著で出してきましたが、単著は初めて。上智2年目の2013年から休まず書き続けてきた東京新聞の紙面審査報のコラム約150本を一冊にまとめました。
審査報での担当コラム「展望〜東京新聞を中心に」は、40日に1度回ってきました(最近は経費の都合で2カ月に1度に減っています)。それも今年で満20年。一つの区切りとして本の形で残したいと思い立ちました。紙面審査報は東京・中日新聞の社外秘ですので、外部の目からコラムへの批評も聞いてみたかったという気持ちもありました。
本にするには、毎回出稿した元原稿をデータ保存していたので、案外簡単な作業で済むと気軽に考えていました。ところが、出版元の編集者と打ち合わせしているうちに、想定外のことに気づきました。元原稿は1200字というコラムの枠に組み込む際、若干の過不足がどうしても出てしまうのですが、校閲を経て最終的に掲載された記事を保存データに反映させていなかったのです。ズボラな私の手抜きが露見してしまいました。
さらに、毎回取り上げるテーマはその時々の最新の出来事をめぐるもので、読者(東京・中日新聞社員に限られますが)にとっては説明も不要なのですが、20年分をまとめて改めて一般の読者に読んでもらうとなると、時期が古い回ほど取り上げたニュース素材は今の若い人にとって“大昔”のよく知らない出来事になっているのです。そのようなわけで、紙面化された記事と保存データを突き合わせて一部手直ししたり、出来事の注を新たに作成したりするなど、当初の目論見とは違って本用の原稿作りは大ごとになってしまいました。新聞とは異なり、一度出したら簡単には修正が効かない出版の周到な校閲作業にも驚かされました。
コラム執筆の際にどんな姿勢で臨んだのか、どんな問題意識を持っていたのかー出版を機に振り返って書いた「はじめに」の中の一部を、ちょっと長いですが以下に引用します。
***
ジャーナリズムの危機が叫ばれている。とはいえ、それはいつの時代でもあった。権力との癒着、独立性の揺らぎ、行き過ぎた商業主義、公平性の欠如、プロパガンダへの協力、人権への配慮不足…まだまだ挙げればキリがないが、時代によって力点の置き方は異なっても、その時々の危機の主要な要素がクローズアップされ、論議され続けてきた。ジャーナリズムと時代は、相互に写し合う「合わせ鏡」なのである。
では、デジタル時代、ネット時代といわれる現代のジャーナリズムの危機であらためて求められるのは何か。それは「プロフェッショナルな意識と知恵と技術」ではないだろうか。
ネットによって誰でも、いつでも、どのようにでも情報発信ができるようになった。そんな新しいメディア環境の中で、「ジャーナリズム」とはどんな活動なのか、「ニュース」とは何か、「ジャーナリスト」とはどんなことをする人を指すのかーそうした原点ともいえる考え方を含め、ジャーナリズムに関するすべてが曖昧になってきている。アマチュアとは違ったプロフェッショナルな仕事の意義が改めて問われているといえるのではないだろうか。……私なりのジャーナリズム論をベースにできるだけ理論的な視点からアプローチしようと決めた。内容は、時々の「出来事」の解説や批評ではなく、あくまでその出来事をめぐる取材や報じ方といった新聞社の編集現場の問題・課題に焦点を絞っている。
理論的、と書いたが、「アカデミックな理屈は机上の空論、理想論」という反発が現場に根強くあることも、またそうした指摘が必ずしも的はずれではないことも自分の経験上から承知していた。私自身は東京新聞のスタンスや主張に必ずしもすべてに共感しているわけではない。しかし、どのようなスタンスをとり、どんな主張をするにしても、ジャーナリズムである限り守らなければならない精神や原則があるはずだ。
このため、コラムでの指摘や提言などは取材や編集現場の事情をできる限り推測・考慮し、そうした状況下でも日々の仕事の質をどうしたら少しでも高めることができるのか、という視点を忘れないよう心がけたつもりである。…
収録したコラムのタイトルと日付の一部を、目次から紹介するとこんな具合です。
ジャーナリズムの本は“売れない”と言われているので、発行部数は1000部に限定。興味のある方は、ぜひ読後のご批評・感想をメール(hashiby417@gmail/com)でお寄せください。
( 元メディア面編集長、橋場 義之)
『ジャーナリズムのココロとワザ』(創論社)定価2640円(税込)、7月15日発行
橋場義之(はしば・よしゆき)さんは1947年東京生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒。1971年、毎日新聞に地方通信員として採用(翌年正社員に)され、初任地は長野支局。東京本社社会部で都庁・宮内庁・遊軍など。西部本社報道部デスクを経て日曜版やメディア面の編集長。10年勤めた上智大を定年退職後、現在は日本記者クラブの記者ゼミ・コーディネーターやJ-FORUM運営委員、同盟育成会の研修アドバイザーなど。
主な著作に『メディア・イノベーションの衝撃―爆発するパーソナル・コンテンツと溶解する新聞型ビジネス』(編著、日本評論社、2007年)、『新版 現場からみた新聞学』(共著、学文社、2008年)、『新訂 新聞学』(共著、日本評論社、2009年)、『調査報道がジャーナリズムを変える』(共著、花伝社、2011年)、『ジャーナリズムの原理』(共著、日本評論社、2011年)など、翻訳に『記者クラブ―情報カルテル』(ローリー・A・フリーマン、緑風出版、2011年)がある。
=東京毎友会のホームページから2023年7月7日
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