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大阪空港騒音公害訴訟はなぜ、最高裁大法廷に回付されたかー32年前の特ダネ紙面を元司法記者、三浦正己さんがNHKETV特集で振り返る=東京毎友会のHPから

2023.05.05

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 「誰のための司法か〜團藤重光 最高裁・事件ノート〜」。NHKのETV特集で、そんな硬派の1時間番組が2023年4月15日深夜に放映され、もう32年前に書いた記事を取り上げるとともに、ディレクターのインタビューを受ける形でほんの短時間ながら登場しました。

 著名な刑法学者で東京大学教授を経て最高裁判事を10年近く務めた団藤さんが生前、最高裁での裁判にずっとかかわった大阪空港訴訟のメモを詳細に大学ノート38冊に書き残し、遺族から龍谷大学に寄贈されました。その大学ノートの記述を読み解くことで、劇的な展開をたどった裁判経過の内実に迫り、司法の在り方を問いかけようとしたのです。

 こうした展開の骨格は、毎日新聞で報じていた内容でした。

<空港の公共性と被害救済の接点が問われ、百年に一度の大裁判といわれた大阪空港騒音公害訴訟で、最高裁の評議がいったん、最大の争点だった飛行差し止めを認める結論に固まっていたことが、関係者の証言で明らかになった。担当の第一小法廷は一九七八年の時点で、そのまま判決を出すつもりだったが、当時の岡原昌男長官の意向を受け、直前に大法廷に回付した。差し止めを却下し、司法の流れを決定づけた大法廷判決から十年を経て、秘められた逆転の審理経過が判明した。>

 1991年12月12日朝刊=写真・上。1面の前文を再録しました。3面に一緒に取材した河野俊史記者と連名の解説、社会面に関係者の3通りの証言、と全面展開の紙面になりました。

 1年前の1990年11月1日、司法百周年を迎えたのを機に、企画「検証 最高裁判所」を1面で計10回連載しました。取材班でテーマを決める中で、大阪空港訴訟の逆転審理は是非とも取り上げたかったのですが、あと一歩、詰め切れませんでした。

 その後、補足取材を重ね、最有力の取材源として団藤さんにも何回かお会いしました。最後の確認を兼ね、河野記者と二人で軽井沢の別荘にも団藤さんを訪ねています。これで取材は尽くしたと確信が持て、岡原長官(当時)からは「大法廷で審理してはどうかというようなことを、あるいは言ったかもしれない」と消極的肯定のコメントが得られました。そして、高揚感と達成感を抱え、記事化に踏み切ったことでした。同時期に、10回の連載企画を改めて書き起こした形で出版しましたが、そこでも大阪空港訴訟の章を新たに設けることができました。

 放映の中では、記事取材時の想定を超える団藤さんノートの記述が、ドラマ仕立てで取り上げられました。それによると、団藤さんも属する第一小法廷の岸上康夫裁判長が、法務省から大法廷回付の上申書が出た翌日、長官室を訪れると、別の二つの小法廷の裁判官一人ずつもいた。そこに電話が鳴り、岡原長官が受話器を取り上げて岸上裁判長に渡したところ、先輩で法務省経験もある村上朝一元長官からで、大法廷回付を要望された――という話を岸上裁判長から聞いた、というのです。団藤さんは怒りを隠せず、「この種の介入は怪しからぬことだ」とノートに書きつけていました。

 僕もコメントを求められて登場していますが、「団藤さんが介入だと受け取ったということでしょう」と、是非の判断は避けて抑制的な発言を心掛けました。確かに極めて異例の場面ですが、元最高裁長官の一言で大法廷回付が決まったわけではないし、あくまでも第一小法廷がどう判断したか、です。その場にいた岸上裁判長から団藤さんへの伝聞であり、どんなニュアンスが実際には込められていたのか、も少し気になったからでした。

 この点の受け止め方はともあれ、かつての団藤さんとの取材メモを読み返してみました。すると、ありました。村上元長官からの要望のことだったのかな、とも推測できるのです。

 「(長官が)岡原さんでなけりゃ、(大法廷回付は)絶対あり得なかった」と断言した後で、団藤さんはこう続けています。「あなた方が想像されているほかに、もう一つ、困ったことがありますよ。その点は、取材の能力の問題じゃなくて、ちょっと出てこないでしょう。当時の調査官にも、『とんでもない、あっちゃいけないことが起きた。けれども外には言わないことにしよう』と話したんです」と。

 うーん。このつぶやきは、やっぱり村上元長官の一件を指していたのだとの思いが、日を経るごとに強まっています。

 付記ながら、番組でどう取り上げられるか分からないのと気恥ずかしさもあって、ETV特集に出演することは特に話していませんでした。でも、司法記者クラブで一緒だった人たちには伝わり、一人からは「奥ゆかしすぎる」とお𠮟りを受けました。再放送、録画、見逃し配信ありで、観てくれた人が広がり、このHPの編集に携わっていて司法記者クラブの先輩の高尾義彦さんから寄稿の要望を受け、お引き受けしました。

                     (元東京社会部 三浦正己)

※写真はNHK・ETV特集から

=東京毎友会ホームページから2023年5月2日

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