先輩後輩
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新刊紹介 東京学芸部、栗原俊雄さんが『硫黄島に眠る戦没者 見捨てられた兵士たちの戦後史』を上梓=東洋毎友会HPから

2023.04.14

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「硫黄島眠る戦没者」

先輩諸氏は、「8月ジャーナリズム」という言葉をご存じでしょう。

 毎年夏になると、大日本帝国の戦争にまつわる記事がたくさん載り、テレビの報道も多くなります。

 ところが、夏を過ぎると潮が引くようになくなっていく。だから「8月ジャーナリズム」。私はその「季節物」のような戦争報道を一年中、20年近く続けてきました。戦争体験者や遺族の証言を集め、史料を読み、掘り起こし、報道してきました。同僚から「常夏記者」とのあだ名をもらいました。彼はからかうつもりだったのでしょうが、私は気に入っています。

 私が行っている戦争報道が、他の記者たちのそれと違う点は二つあります。

 一つは上記のように一年中行っていること。もう一つは、戦争を過去の出来事としてではなく、現在進行形のものであるという問題意識で取材し、報道していること。

 戦闘は78年前の1945年夏に終わった。しかし、戦争被害は今も続いている。広義の戦争は未完である、と考えています。

 その、「未完の戦争」の象徴が戦没者遺骨。天皇を国家元首とする大日本帝国の無謀な戦争で、およそ310万人もの国民が死にました。敗戦から78年が過ぎた今も、100万体以上の遺体・遺骨が行方不明です。

 離島とは言え首都東京の一部であり、自衛隊が常駐している硫黄島(小笠原村)でさえ、1万体以上が行方不明。さして広くない島なのに。そもそも政府はこの硫黄島でさえ、遺骨収容をすべて行う意思は最初からありませんでした。

 この島はまさに、「未完の戦争」の象徴中の象徴であり、日本国政府と私たちの社会が、戦後補償をいかに軽視してきたかを伝える地でもあります。

 いいかげんな戦後補償の実態を知られたくないからか、政府は硫黄島への立ち入りを厳しく制限しています。元島民や戦没者の遺族の墓参さえ自由にはできません。メディアの取材はなおさら。

 その硫黄島に、私は4度、渡りました。本書はその取材の成果によるものです。硫黄島に限らず、戦没者の遺骨収容を進めたい。集めるだけでなくてDNA鑑定で遺骨の身元を特定し、待っている人に帰ってほしい。そういう思いから書きました。

 硫黄島の遺骨収容とDNA鑑定を巡っては、「硬軟展開」、すなわち新聞の一面と社会面に書き分ける「特ダネ」がありました。ただ、私はそこをゴールにしませんでした。取材の端緒から「記事で政府を動かしてみせる」という目標を立てていました。

 その目標が達成できたのかどうか。達成すべく、官僚や政治家とどう対峙してきたのか。そんな舞台裏も今回は書きました。10年以上黙っていた、「最初の渡島に至る顛末」も。

 「栗原さん、あなたのやっていることはもう報道じゃない。運動だよ」と知人は言う。「報道であり運動なんだ。社会正義を実現するための」と私は言い返しています。

 学芸部に異動してから21年。60歳の定年退職が近付いてきました(あと4年)。入社前から希望し、入社後も希望していた政治部には行けませんでしたが、戦後補償を進めるための報道=運動を続けていきたいと思っています。

                             (栗原 俊雄)

 『硫黄島に眠る戦没者: 見捨てられた兵士たちの戦後史』は岩波書店。2420円(税込み)。ISBN 978-4000615877

 栗原俊雄(くりはら・としお)さんは1967年生まれ、東京都出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。同大学院政治学研究科修士課程修了(日本政治史)1996年毎日新聞入社。横浜支局などを経て2003年から東京学芸部。現在は専門記者(日本近現代史、戦後補償史)。著書に『戦艦大和 生還者たちの証言から』『シベリア抑留 未完の悲劇』『勲章 知られざる素顔』『遺骨 戦没者三一〇万人の戦後史』『東京大空襲の戦後史』(以上岩波新書)、『「昭和天皇実録」と戦争』(山川出版社)『特攻 戦争と日本人』(中公新書)『シベリア抑留 最後の帰還者』(角川新書)『戦後補償裁判 民間人たちの終わらない「戦争」』(NHK出版新書)『戦争の教訓 為政者は間違え、代償は庶民が払う』(実業之日本社)など。

=東京毎友会のホームページから2023年4月10日

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