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新刊紹介 在日米軍特権を洗い出したキャンペーン報道が新刊『特権を問う ドキュメント・日米地位協定』に=東京毎友会のHPから

2022.08.02

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「特権を問う」

 「日米地位協定」の問題を取り上げた毎日新聞のキャンペーン報道「特権を問う」が一冊の本にまとめられ、7月23日に出版されました。

 地位協定は、日本の法律の適用除外など在日米軍にさまざまな特権を認めるもので、低空飛行や環境汚染など米軍が繰り返し起こす問題の元凶と言われながら、一度も改定されていません。キャンペーンは協定締結60年の節目の2020年にスタートし、20人を超える記者が徹底した現場取材で問題を一つ一つ洗い出していきました。

 米兵に最愛の人を殺害された男性がぶつかった米軍特権の壁、在日米軍基地で働く日本人が受けた理不尽な取り扱い、沖縄の米軍基地周辺で広がるコロナ感染の実態――。その中でわたしが担当したのが、米軍ヘリが都心で日本のヘリならば違法となる低空飛行を繰り返している問題です。

 米軍ヘリは、日本の法定高度(300㍍以上)を下回る200㍍前後で山手線内を飛び回ったり、新宿や浜松町のビル群をすり抜けたりします。東京スカイツリーを2機編隊で何度も周回したこともあります。その様子を半年間かけて撮影して報じました。動画コンテンツの再生回数は100万回を超え、国会審議や日米の閣僚協議でも取り上げられました。

 よく聞かれるのは、どうやって撮影したのかということです。正直言って楽ではありませんでした。

 米軍ヘリは東京郊外の「横田基地」や神奈川の「キャンプ座間」などから都心に飛来します。六本木に米軍のヘリポートがあるためです。やってくるのは、米陸軍の「ブラックホーク」、米海軍の「シーホーク」、米空軍の「UH―1」。これらを撮影するのですが、いつ来るか分からず、ヘリポートに立ち寄らないことも多い。見逃さないためには、都心の高層ビルのフロアから空を凝視していなくてはなりません。軍用ヘリは黒やグレーで目立たないこともあり、気を抜けないのです。

 その見張りがわたしの役目でした。そして、この取材を一緒に始めた映像グループの加藤隆寛記者が獲物を仕留めるハンターの役でした。ヘリのルート下にある別のビルや地上で待ちかまえ、わたしの連絡を参考にしつつ、至近距離から狙うのです。ヘリの動きは変則的で予測しづらい。スピードもあるため、近くに来ても一瞬で通りすぎる。まさに一発勝負でした。

 低空であることを証明するには、ヘリの機体が高層ビルと重なるシーンを押さえねばなりません。しかも、証拠映像が1本や2本程度では、米軍が低空飛行を認めないのは過去の対応からも明らかでした。ウェブ時代の今、中途半端な証拠で報道すると、あげ足をとられかねません。誰もが納得できる報道にするには、証拠動画を何本も撮りためることが必須でした。

 撮影は失敗の連続。空振りの日も多い。当然ながら時間がかかる。一方で社内ではどの部署も人繰りが厳しい。取材を後押ししてきた木戸哲社会部長(当時)も渋い表情を浮かべるようになります。空を一日中眺めても成果があがらず時間だけが過ぎていくと、胃が痛くなりました。それでも、わたしたちは20回以上の低空飛行の証拠を押さえるまで撮影を続けました。それができたのは、二つの確信があったからです。

 地位協定といえば、米軍基地が集中する沖縄の問題と思われがちです。日本の首都を蹂躙するかのような異常な飛行を報じることができれば、日本全体の問題と認識してもらえるはずだ。一向に進まない協定改定の議論に一石を投じられるかもしれない。少なくとも、中国の台頭で真価が問われている日米同盟のあり方を考える材料は提供できるだろうと思ったのです。これが一つ目の確信です。

 もう一つは、新聞社にとって新しいスタイルの調査報道になるという確信です。ウェブ上に無料のニュース記事があふれる今、これまでと同じ発想で記事を書いても新しい読者は獲得できません。ウェブユーザーが好んで視聴するのは動画です。撮りためた米軍ヘリの低空飛行の証拠は「特ダネ映像」でもあり、インパクトがある。これを新聞記事とうまく組み合わせて報道できれば、活字メディアの枠を越えた新機軸を打ち出せる。そう踏んだのです。

 取材終盤には、毎日新聞の取材ヘリを飛ばして、上空から米軍ヘリの低空飛行をカメラで狙う大がかりな試みもしました。勝負どころでは、取材班の記者だけでなく、社会部の銭場裕司デスク(当時)や映像グループの佐藤賢二郎デスク(同)らも撮影に駆けつけました。木戸部長もヘリを見かけると、慌ててスマホを取り出して機影を追うようになっていました。気がつけば、総力戦になっていたのです。

 取材班はこのほかにも、日本国内で罪を犯した米兵の拘束に絡む日米の「密約」や、羽田新ルートと米軍の横田空域を巡る日米交渉の内実をスクープしました。出版された本は全編書き下ろしで、担当記者が取材の内幕をできるだけ明らかにしています。その手法はオーソドックスなものから新機軸を狙ったものまで様々ですが、記者たちの悪戦苦闘ぶりからは、ウェブ時代の荒波の中でもがく活字メディアの今も見えるかもしれません。

                     (社会部 大場 弘行)

 『特権を問う ドキュメント・日米地位協定』(毎日新聞取材班)は毎日新聞出版刊行。
定価:1870円(税込)
https://mainichibooks.com/books/social/post-575.html 

 大場弘行さんは東京社会部記者。2001年入社。社会部で東京地検特捜部担当として小沢一郎氏の秘書が逮捕された陸山会事件を取材。その後、サンデー毎日編集部で東日本大震災と原発問題の取材に奔走し、横浜支局では川崎市の中学1年の男子生徒が多摩川河川敷で殺害された事件を追いかけた。東京社会部と特別報道部で手がけた「公文書クライシス」では取材班代表として早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した。
https://mainichi.jp/ch210273167i/%E5%A4%A7%E5%A0%B4%E5%BC%98%E8%A1%8C 
https://www.mainichi.co.jp/saiyou/staff/Oba.html 

=東京毎友会のホームページから2022年7月29日

(トップページ→新刊紹介)

https://www.maiyukai.com/book#20220726