2022.04.21
先輩後輩
新聞記者はデジタル化の波の前で、どうすれば本来の新聞記者としての役割を果たせるのか。そんな問題意識を突き付ける一冊。だが、本論に入る前に、ペンネームらしい「坂夏樹」さんが誰なのか、気になりながら読み進めた。
略歴には、「全国紙の元記者。論説委員などを歴任したほか、大阪や京都を中心に警察、司法、行政などを主に担当した」「バブル経済期の闇社会の実態に迫る特命取材にたずさわったほか、平和問題や戦争体験、人権問題を取材テーマにした」と紹介されている。
著書としては『千二百年の古都 闇の金脈人脈』『命の救援電車』『一九一五年夏 第一回全国高校野球大会』(以上、さくら舎)があげられている。
読み始めると、「はじめに」に、「私は毎日新聞社で30年あまり、新聞記者として働いた」と記している。1961年うまれというから、60歳か61歳。2019年に毎日新聞社が200人の早期退職を募った際に退社した、と当時の社内の動きを振り返る。本文では、会社のこの決断が「記者から笑顔を奪い、将来も奪いはじめている」と痛みを感じつつ、批判している。
人事記録によれば、「坂」という記者はいない。大阪本社勤務が長かったようなので、大阪の知り合いに尋ねてみたが、行き当たらない。在職中から「ある私立大学で約10年間にわたり、非常勤講師を務めた」という。自分が体験した取材についても報告されているが、具体的な事件名はあげていない。
執筆の主眼は、デジタルファーストの時代が記者を育てられない環境を生み出していることへの批判が原点で、特ダネを追いかける、特ダネに執着することの重要性など耳を傾けるべき記述も多い。新聞社を批判するだけでなく、ネットの時代になっても、新聞記者は何を大事にすべきか、存在意義はあるはず、と警鐘を鳴らしている。
「記事の中身よりもネット受けを求められる記者……。速報性と合理化の前に『原稿は足で書け』は死語となったのか」という指摘は、新聞の現場できちんと受け止められるべきだろう。筆者は「新聞の底力」を信じるメッセージを締めくくりとしていることを考えても、単なる新聞批判と受け流すべきではないだろう。
さて、それにしても「坂夏樹さん」はどなたなのでしょう?
(高尾 義彦)
「危機の新聞 瀬戸際の新聞記者」はさくら舎刊。定価1760円(税込み)。2022年4月7日発売。ISBN:978-4-86581-340-1 さくら舎は、千鳥ヶ淵の新しい出版社だという。
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