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創刊150年記念寄稿 カーリング女子日本、快挙の原点は「北方圏構想」にあり(山田 寿彦)

2022.03.05

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会報「北方圏」創刊号1971年4月25日

 北京冬季五輪で前回平昌大会の銅メダルに続き、銀メダルに輝いたカーリング女子日本チーム「ロコ・ソラーレ」。数々のドラマを楽しませてもらった日本人は多いだろう。これほどの注目を集めるカーリングが日本に競技として根付いた背景に毎日新聞の多大な貢献があった歴史を知っている人はどれだけいるだろうか。ウイキペディアでカーリングを引いても毎日新聞の名前はない。キーワードは、カーリングを日本に定着させた立役者に挙げられている「北方圏センター」である。

 北方圏センターは北方圏構想に基づく国際交流の推進母体として北海道で設立された。構想の提唱者は毎日新聞であった。前身の北方圏調査会(1978年にセンターに改称)の設立総会が開かれた 71 年4月1日、渡辺善一郎・毎日新聞北海道発行所代表取締役は発起人代表として次のように述べている。

 「本道は日本の中の北海道にとどまっていてはいけないことを痛感する。本道がおかれた地理的条件から考えても世界の中の北海道にならなければならないし、北西アジアおよびアラスカ、カナダなどを含めた諸地域とともに発展していかなければならない」
 「本道がおかれた地理的条件」とは、北極圏を中心に逆さまから地球儀を眺めると、北海道には北方圏諸国との距離的優位性がある、という意味である。中央依存・官依存の植民地体質が抜け切らない北海道に、同じ積雪寒冷の厳しい自然条件を持つ世界に視野を広げよ、と飛ばした〝檄〟であった。

 調査会の会長には堂垣内尚弘知事が就任し、事務局は発行所(現支社)に置かれた。設立総会には佐藤栄作首相、愛知揆一外相、永野重雄・日商会頭、植村甲午郎・経団連会長らから祝辞が寄せられ、役員には道内主要都市の市長、政治・経済界のお歴々がずらりと並んだ。北海道印刷の開始(1959年5月1日)からわずか12  年。全国紙の面目躍如の感が会報『北方圏』創刊号1971 年4月 25日付ある。

 渡辺氏の右腕となって調査会設置に並々ならぬ情熱を傾け、北欧やシベリア取材、執筆、各界の根回しに活躍したのが報道部記者の森直樹(愛称はチョッキ)氏である。77年に41 歳で早逝した森氏の追悼集で堂垣内知事は「北方圏調査会の生みの役」と振り返り、渡辺氏もまた「北方圏の確立、位置づけに、その夢とロマンを託した」と功績をたたえている。

 北方圏調査会・北方圏センターはソ連極東地域、カナダ、アラスカ、北欧に経済・文化視察団を次々と派遣。北方圏環境会議や北方圏ジャーナリスト交流会議といった国際会議やシンポジウムを企画するなど、北方圏に軸足を置いたユニークな国際交流活動を展開した。その過程でカナダ・アルバータ州との友好関係(80 年、道と姉妹提携)が築かれる。

 78年9月、アルバータ州の州都エドモントン市を訪れた堂垣内知事はカーリング場を視察し、ストーンを投げた。「これはなかなか面白い」と喜び、随行した北方圏センターの職員に「道内で広めたい」と意欲を示した。北方圏センターが事務局を担い、指導者を養成する講習会が企画された。コーチ派遣の要請をアルバータ州は快諾したばかりか、50人分の用具一式の寄贈まで申し出てくれた。

 講習会は80 年から84年まで毎冬1~2月、世界選手権優勝チームの一員であったウォーリー・ウースリアク氏をコーチに招き、道内各地で開催された。開催地は延べ 23市町にのぼり、オホーツク海に面する旧常呂と こ ろ
町(後に北見市と合併)もその一つ。「ロコ・ソラーレ」の本拠地が北見市常呂町にあるのは、この時の講習会に端を発している。

 道内では当時、カーリングはカナダの都市と姉妹提携する十勝の池田町で町民スポーツとして親しまれていた程度。ウースリアク氏は五輪競技になる可能性について、「日本一国だけではなく、アジアで広がらないと無理だろう」と語っていたという。後に北方圏センターはその火付け役となる。

 道は86年、中国黒竜江省と姉妹提携。北海道・アルバータ州・黒竜江省の3地域交流事業として黒竜江省でカーリング講習会を開催する案が持ち上がった。中国側は当初、乗り気ではなかったというが、北方圏センターが仲介する形でアルバータ州から用具一式が中国側に寄贈され、北海道からコーチを派遣することで講習会の開催が決まった。この講習会は中国がカーリングの強豪国に成長する足掛かりとなった。

 私は支社最後の出向者として2009年から2年間、北方圏センターで出版部長を務めた。北方圏センターはその後、ありきたりの団体名に変更され、「北方圏」の看板は季刊誌の名称に残すだけである。道庁OBが退職後の5年間をのんびりと過ごすだけの場所となってからは、たどるべくしてたどった道かもしれない。

 しかし、渡辺善一郎氏が、森直樹氏が、毎日新聞が道内にまいた北方圏構想の種と哲学はそれぞれの地域に根をおろし、幹を伸ばし、多彩な国際交流の形となって花を咲かせている。「ロコ・ソラーレ」の快挙を大輪の花の一つとして、毎日新聞社史に私は刻みたい。

                       (北海道毎友会副会長・山田 寿彦)