2021.06.26
先輩後輩
——前作『埋もれた波濤』で人気を博した元新聞記者の著者による、綿密な取材の上で紡ぎ出される「虚構」の糸が、4つの短編として編み出される。
著者・滑志田隆は、社会部旧友。1951年神奈川県藤沢市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1978~2008年毎日新聞記者。2008~10年統計数理研究所客員研究員。2010~15年森林総合研究所監事。2015~内閣府・農林水産省・国土緑化推進機構各委員。
日本山岳会、日本野鳥の会、山形文学会、日本記者クラブに所属。俳誌『杉』『西北の森』同人などと履歴にある。
あとがきでいう。《サラリーマンを引退した後、60の手習いでいくつかの雑誌に小説まがいの作品を書いている。その中から4作品を選んで2冊目の小説集を編むことにした。
前作『埋もれた波濤』(論創社)が売れ残っているのに、愚挙を繰り返すつもりかと言われそうだが、気持ちに区切りがつかず、前に進めなくなった。できるだけ多くの人から批判を受け、老残の文芸に磨きをかけたい一心である》
内容は——。「ミャンマーの放生」=民主化運動が広がる社会主義国ミャンマーを舞台に、観光客と現地人通訳が生の意味を問う物語。臨死、病気や事故の経験から、自分の生を見つめ直すことはできるのか。老・病・死の重力を緩和する“旅”という人間行為の魅力。マンダレー中央乾燥地での植林作業の模様も記述。
「漂流船」=次々に北朝鮮から漂着する木造船の見物行と、20年前の山形県知事“笹かまぼこ疑惑”の真相が並行して語られる。黒いカネが行政を歪めることを未然に防いだ知事であったが、それが原因で世間から疑惑の目を向けられる。漂流ともいえる事態に陥った事件の真相とは。
「ボートは沈みぬ」=有名な歌曲“真白き富士の嶺”をめぐり、その裏で展開した人間関係を再検証する。運命に弄ばれる個性の連環と生の不条理、不公平を描こうとする探索もの。
「道祖神の口笛」=戦時下の仙台市を舞台に、大学生の焦燥の日々を通して、虚構の設定が無ければ前にすすむことのできない知性の哀しさを描く青春小説。太宰治らしき謎の人物との邂逅——という設定が、読み手の想像をかきたてる。
(堤 哲)
論創社2021年6月30日刊行。定価:1980円
ISBN-10:4846020584、ISBN-13:978-4846020583
「お買い求めの場合は、新宿紀伊国屋・文芸書コーナー電話注文専用(☎03・3354・5702)への予約が便利」と滑志田さん。
=東京毎友会のホーページから2021年6月21日
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