2021.06.20
先輩後輩
毎日新聞社を選択定年退職したのは、2年前の2019年5月でした。翌月から縁あって故郷・茨城県の筑波大に移り、教員と科学コミュニケーター、筑波大学新聞編集代表の三役をこなす日々を送っています。
現在、一番大きなウェイトを占めているのは科学コミュニケーターでしょうか。大学発の研究成果を社会に発信するとともに、研究者たちにその反応をフィードバックし、相互理解を深めるというのが、その役割です。
最近で印象深いのは、ゲノム編集トマトです。ミニトマトより一回り大きな実を1粒食べるだけで、高血圧の改善効果が期待できるというもので、筑波大の江面浩教授が開発しました。大学発ベンチャーが昨年末に国に届け出をし、今年5月には苗の配布も始めました。ゲノム編集食品としては国内初の商品化です。この間、2度にわたって記者説明会を開き、当日の司会を務めました。安全性を疑問視する消費者団体もある中、説明会では正確で丁寧な情報提供に努めました。記者時代とは逆の立場になりましたが、受け手のことを考えながら情報を伝えるという点では、記者時代と変わりません。
教員としては、ジャーナリズム論の演習授業を担当し、マスコミ希望者向けに作文の書き方指導などを行うゼミも開いています。この2年間で15人ほどの学生が、毎日新聞を含む大手紙や通信社、NHK、出版社などに進むことになりました。ゆとり世代ですが、国内外でボランティアを経験するなど、社会に貢献したいという気持ちを持っている学生が多いです。この後触れる大学新聞の編集部員もいますが、新聞より放送・出版業界の希望者の方が多いのが、ちょっと残念です。
筑波大学新聞はタブロイド判12㌻で年7回発行。部数は約2万部で、入学式や秋の学園祭の時期に発行される号はさらに部数が増えます。大学の広報紙という位置付けですが、1年生から3年生まで約25人の部員が話し合って内容を決め、取材、執筆、編集作業までをこなします。つくば市の駅前再開発など地域の話題も積極的に取り上げます(紙面は大学のウェブページでご覧いただけます)。
https://www.tsukuba.ac.jp/about/public-newspaper/pdf/363.pdf
編集代表の私はいわばデスク役で、企画の立て方や取材の仕方を指導し、原稿の修正など編集作業全般をチェックしています。
昨年4月以降、紙面の中心は新型コロナを巡る問題になりました。特に昨年の春学期(4~9月)は授業が全てオンライン化され、キャンパスへの出入りも厳しく制限されました。大学新聞では、オンライン授業のメリット・デメリット、新人勧誘ができず存続の危機に陥った課外活動団体、売り上げ大幅減で廃業に踏み切った学内食堂など、さまざまな話題を取り上げてきました。
先程部員は約25人と言いましたが、1、2年生だけで20人を超えます。コロナ禍で学生生活にも影響が出ている今だからこそ人とつながりたい、情報を伝えたいという思いを持っているからに違いありません。10年後、20年後に大学新聞を読み返してみると、きっと貴重な歴史の記録になっているはずです。
今年5月で還暦を迎えました。肩や腰の痛みに悩まされるなど、体の方は年相応にボロが出始めました。でも、若者たちから元気をもらいつつ、もうしばらくは、つくばの地で現役生活を送りたいと考えています。 (鴨志田 公男)
※鴨志田公男(かもした・きみお)さんは1961年水戸市生まれ。京都大理学部卒。86年入社。初任地は奈良支局。福井、京都、大阪科学部を経て東京科学環境部。前橋支局長、北海道報道部長を経て論説委員。2019年5月に退社。
=東京毎友会のホームぺージから2021年6月18日
(トップページ→元気で~す)
https://www.maiyukai.com/genki#20210618