2021.05.15
先輩後輩
近年、ツイッターなどSNSによる誹謗中傷問題が深刻化していることに関連し、「新聞研究」2021年5月号(日本新聞協会)に寄稿しました。2019年春から2年間、東京本社・統合デジタル取材センター(以下、統デジ)のデスクとして勤務。昨年5月から8月にかけて集中的にこの問題に取り組み、9月には「SNS暴力~なぜ人は匿名の刃をふるうのか」(毎日新聞出版)を発刊しました。新聞研究では、一連の取材過程とSNS規制のあり方について執筆。以下、簡単に内容に触れます。
昨年5月末、女子プロレスラーの木村花さん(当時22歳)が亡くなり、生前、テレビ番組での振る舞いを巡ってSNS上で激しい中傷を受けていたことが判明しました。統デジでは、本来利便性をもたらすはずのSNSが人を死に至らしめる「凶器」になってしまったことを重大視。急遽、私が統括役となり、5人の記者で取材班を組みました。
木村さんの遺族をはじめ、過去に誹謗中傷を受けた芸能人や一般市民らを広く取材し、深刻な被害実態をあぶり出しました。一方で、加害者捜しは難航しましたが、取材に応じてくれた人たちは、いずれも粗暴さとはほど遠い「普通の人」ばかりでした。大半は「遊び半分」の軽い感覚や、歪んだ「正義感」から誹謗中傷に加担していました。背景には、日々の不安やストレス、経済的苦境があり、日本社会特有の「同調圧力」が中傷の拡散を後押し。「社会の闇」が浮かび挙がりました。
一般市民がSNSによる誹謗中傷を受けても、刑事責任を追及したり、損害賠償を勝ち取ったりすることは至難です。被害回復の難しさ、規制の必要性について探るとともに、規制の行きすぎによって「表現の自由」が脅かされる可能性についても考えました。
取材班は、誹謗中傷という負の側面に注目する一方、SNSの効用についても着目しました。昨年5月、一人の女性が「#検察庁法改正案に抗議します」とツイッター上で問題提起すると、たちまち数十万人の抗議のうねりに転化。政府は法改正を先送りせざるをえなくなり、SNSが社会変革の力を持つこともわかりました。
余談になりますが、一連の取材を通じて、SNS活用を含めたデジタル化が、記者の働き方やメディアのあり方にも大きな変化をもたらすことも実感しました。私以外の5人の記者は全員女性で、4人が子育て中。新型コロナの影響で、子供の保育園や学校のスケジュールが変動して、親の負担が増える中、取材の一層の効率化が求められました。対面の会議や硬い企画書を一切なくし、調整や連絡はオンライン会議やSNSを多用。効率的・集中的な作業を心がければ、短期間でも質の濃い連載や書籍出版ができることを証明でき、大きな収穫になりました。
▽SNS暴力~なぜ人は匿名の刃をふるうのか(毎日新聞出版)
www.amazon.co.jp/dp/462032647X
▽新聞研究5月号
https://www.pressnet.or.jp/publication/kenkyu/
(大阪本社写真部長、鵜塚 健)=前・統合デジタル取材センター副部長
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