2021.04.08
先輩後輩
アメリカンフットボール・マガジン別冊「NFLドラフト候補名鑑2021」というMOOKを2021年4月7日にベースボールマガジン社から刊行しました。定価1100 円(税込)。編集者兼ライター兼フォトグラファーとして、携わりました。
内容紹介にこうあります。《全米プロフットボールリーグNFLのスーパーボウルに次ぐビッグイベントと言われるドラフトの情報を網羅した一冊。候補選手123人の名鑑を中心に、上位指名が確実視されているクォーターバックの評価、世界最高のスポーツリーグの基盤となっているドラフトの仕組み、チーム別の展望などを掲載》
NFLの本はこれまでにも何冊も出ていますが、ドラフト会議に特化した書籍はこれが初めてです。ありがたいことにAmazonでは売り切れになるほど、ファンの反応も良く、初めての試みとしては成功ということになりそうです。
https://www.amazon.co.jp/dp/458362669X
この本を出版した経緯をお話しします。
12月のある夜、布団の中で夜寝る前に「ドラフトの本を出せないか」と思いつきました。1月になって、普段からお世話になっているベースボールマガジン社の樋口幸也さん(元陸上競技マガジン、ランニングマガジン「クリール」各編集長、現執行役員営業局次長)に提案しました。最初は「?」という感じでしたが、社内を説得してくださって話が固まりました。
今回、本を出す中で考えたのは、選手を人間として見る視点です。
NFLやバスケのNBAでは、高い順位でドラフト指名されながら、プロで全く活躍できなかった選手を意味する「バスト(BUST)」という有名な俗語があります。元は「破裂」という意味ですが、「大失敗」という語感です。その選手を罵るときに使う言葉です。
バストという言い方はしたくない。そう考えました。
余談ですが、我が家の息子も今春大学を卒業し就職しました。高校ではアメフトの選手でした。
NFLのドラフト候補選手は、195センチ115キロで100メートルなら10秒台半ばで走るような超人たちです。彼らも一皮むけば、息子と変わらない、どこにでもいる青年です。親が、家族が、地域が、形の違いはあれ、大切に育ててきた人間です。
選手としての実績だけで、その人を評価する。プロの実力の世界である以上、ある程度は仕方のないことですが、そこに少しずつ違う視点を入れました。
名鑑の部分をすべて担当したのですが、全米の大学から選んだトップ選手123人の選手評を書くときに、なるべく競技以外の人となりを示すエピソードを盛り込みました。
その中で、特に気になった選手がいました。西アフリカ・リベリアの内戦のため隣国ギニアの難民キャンプで生まれ、母と兄と3人で米に移住、今ドラフトで、有力候補となったミシガン大のクウィティー・ペイ選手の話です。
ペイ選手が生まれた1998年は、毎日新聞が「難民救済キャンペーン」で、ちょうどリベリアを取り上げた年であり、後輩カメラマンの米田堅持さん(現東京本社編集編成局)が現地に取材に行っていた時期とも重なりました。米田さんにも参考として話を伺い、いろいろとストーリーが膨らんだ中でできた記事です。
中身については本を読んでいただきたいのですが、そうやって一人一人、本当にさまざまなバックボーンを持つ選手たちが活躍しているのがアメリカのプロスポーツの魅力だと思います。私自身も、25年前、アフリカではない他地域ですが、難民取材に行きました。あの時に出会い、写真を撮った子供たちは、どんな大人になったのか、今何をしているのか、ふと思うことがあります。
そういう毎日時代の貴重な経験が今回の雑誌の中でも生かすことができたのかなと思います。
このペイ選手の記事の他、以下を執筆しました。
・Quarterback Shuffle 2021—司令塔たち、激動の春
・Thank you Drew, Goodbye Philip—引退する偉大なQBの足跡
・If もしも、あの時…「たられば」で振り返るNFLドラフト指名
・QBとして林は高田鉄男に匹敵した—橋詰監督が語った日大フェニックスの2年半
・オービックシーガルズ 7年ぶりの王座奪還—その瞬間、男たちは涙を流した
◇
今年の第86回NFLドラフトはオハイオ州クリーブランドで4月29日から3日間(日本時間4月30日~5月2日)にわたって開催されます。AFC (American Football Conference)とNFC(National Football Conference)各16チーム、計32チームが参加。シーズンわずか1勝で地区最下位、リーグ全体でも最低の成績だったAFC南地区ジャクソンビル・ジャガーズが1番に指名、32目はスーパーボウル優勝のNFC南地区タンパベイ・バッカニアーズだ。
日本では日本テレビ系列の有料チャンネル「ジータス」が、初日の1巡指名(32選手)を完全中継します。
米プロフットボールNFLは、俗にいう米4大スポーツ(野球のMLB、バスケットのNBA、アイスホッケーのNHL)の中でもNo.1の人気を誇ります。
そのNFLの中で、ファンやメディアの最大の注目を集めるイベントが4月末にあるドラフトです。
これは意外と知られていないことですが、MLBのドラフトは1965年スタートで、日本でドラフト会議が始まった年と同じです。日本のプロ野球(NPB)ドラフトが手本にしたのは、NFLのドラフトでした。
NFLドラフトは1936年に始まりました。一部の声の大きなチームの圧力でいびつに歪められたNPBドラフトとは違い、前年成績最下位チームからの完全ウェーバーです。指名順位が切り替わるときに折り返したりもしません。
なぜなら、「弱いチーム、人気のないチームでも、浮上できるリーグ全体の戦力均衡こそが繁栄の基礎」という思想が完全に行き渡っているからです。
もちろん指名権を巡る抽選などもありません。
では、かつての「江川事件」のように、選手が行きたくない球団に指名されたらどうなるのか。
指名権がトレードできます。指名権対指名権のトレードができますし、指名権対現役選手のトレードもごく一般的です。それだけでなく、交渉権も交換できます。
さらに
・FAで戦力ダウンしたチームには補償指名権付与
・ヘッドコーチかGMがマイノリティの場合にも指名権付与
・公式戦などで重大な規則違反を犯したチームへの罰則としてドラフト指名権はく奪
などがあります。ドラフトを基盤にしてNFLは運営されていると言っても過言ではありません。
リーグや球団だけではありません。ファンにとっても重要です。よく、「スーパーボウルがNFLで最高のイベント」と言われますが、ある意味で正確ではありません。
競技として本当に楽しめるのは出場2チームのファンだけです。それに対してドラフトは、32チームすべてのファンが楽しめます。
指名権がトレードできます。指名権対指名権のトレードができますし、指名権対現役選手のトレードもごく一般的です。それだけでなく、交渉権も交換できます。
さらに
・FAで戦力ダウンしたチームには補償指名権付与
・ヘッドコーチかGMがマイノリティの場合にも指名権付与
・公式戦などで重大な規則違反を犯したチームへの罰則としてドラフト指名権はく奪
などがあります。ドラフトを基盤にしてNFLは運営されていると言っても過言ではありません。
リーグや球団だけではありません。ファンにとっても重要です。よく、「スーパーボウルがNFLで最高のイベント」と言われますが、ある意味で正確ではありません。
競技として本当に楽しめるのは出場2チームのファンだけです。それに対してドラフトは、32チームすべてのファンが楽しめます。
スーパーボウルは出場チームが決まって2週間でお祭り騒ぎは終わりますが、ドラフトは、2月上旬のシーズン終了後2カ月半にわたって、盛り上がりが長く広く続きます。
ドラフトのエンタメ性に気が付いたNFLは、3日間に分けて、公開イベントとして行うようになりました。昨年はCOVID-19 の影響で、ネット上のリモート開催でしたが、今年はリアルなイベントとして開催することが決まりました。
(小座野容斉)
*小座野さんは898入社。写真部→デジタルメディア局→知財ビジネス室などを経て2020年退職。アメフトファン歴は小学校以来47年。ドラフト候補123選手の名鑑作成は、スタッツを扱う専門サイト、全米各大学チームのHP、地元新聞などの情報によったそうです。
=東京毎友会のホームページから2021年4月8日
(トップぺーっじ→新刊紹介)
https://www.maiyukai.com/book#20210408
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