先輩後輩
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新刊紹介 「世界を敵に回しても、命のために闘う ダイヤモンド・プリンセス号の真実」=東京毎友会のHPから

2021.04.06

先輩後輩

 昨年(2020年)秋に新聞紙上で連載した企画が、このほど大幅加筆して毎日新聞出版から本になりましたので、この場をお借りして紹介させていただきます。

 タイトルは「世界を敵に回しても、命のために闘う ダイヤモンド・プリンセス号の真実」です。副題にもありますが、昨年2月に横浜港に停泊した大型クルーズ船で起きた集団感染事故についての本です。当時、国内外から注目された事案で、船内の感染対策は厳しく批判されました。しかし、検疫・患者搬送に尽力した人たちの話を直接聞くと、まったく違う印象を受けました。いえ、それどころか、活動を仕切ったリーダーたちは、官邸・厚労省の命令・指示に反しても、「いのちを守る」ことに全力を尽くしていたことがわかったのです。それじゃあ、書かずにはいられません、ライターのサガであります。

 私は社会部の専門編集委員ですが、いつもはコラム「掃苔記」を連載し、たまに、毎日jpの政治プレミアで自衛隊のことについて書いています。新型コロナ感染症については、一般読者と同程度の関心、知識しかありませんでした。

 ところが、事件が収束してしばらく経った昨年夏、神奈川県の感染症対策を仕切っている人物として、藤沢市民病院の阿南英明・副院長がNHKテレビに出ておりました。実は彼には7年ほど前に、毎日新聞の名物企画「ストーリー」の取材で密着したことがあり、「いまならオモシロイ話が聞けるかも」という軽い気持ちでメールしたのが取材のきっかけであります。返事はすぐ届きました。

 「タキノさん、長い話になりますよ」

 その通り、長い取材になりました。

 彼は1995年の阪神大震災のとき、「救える命が救えなかった」という反省から厚生労働省に創設された災害派遣医療チーム(DMAT)の創設メンバーで、ダイプリ号事件でも、ほかに危機対応オペレーションをやれる組織が見当たらないということで、DMATが活動の中心となりました。阿南医師が県庁にいて患者搬送を指揮し、あとは船内活動のリーダー、厚労省の若手幹部、そして事件後、「神奈川モデル」という医療体制を立案していく若い県顧問の計4人が主な登場人物です。私はこの4人を「DP4」と呼んでいます。

 ここでは活動の内容にはあまり踏み込みませんが、とにかく、発熱患者はどんどん出続ける。日々数十人、多い日では100人近く出ます。一方、感染症指定の病床は県内に74床しかない。昨年2月といえば、国内全体で判明感染者が20人程度の時期です。新型コロナ感染症患者をどこに運べばいいのか。東京など隣県に受け入れを要請しても、断られる。さて、どうするか――。しかも、官邸は「早く検疫して、隔離しろ」と矢継ぎ早の指示をしてきます。「あのまま官邸の指示に従っていたら、船内で死者が確実に出ていました」。そう言います。つまり、面従腹背して対応に当たったのでした。

 しかも、活動開始から2週間ほどして、唐突に、世界の感染症の現場を歩いてきた神戸大学の教授が数時間だけ船に乗り込み、「対策がまったくなっていない」「恐怖を感じた」という感想をネットに動画で流します。現場はさらに混乱し、批判も強まっていきました。

 実は、その数日前、感染症の専門家チームが派遣され、「対策指導」をしていたのでした。ただ、チームは3日で撤退していた。なぜなんだ! 専門家に対する不満が現場に充満していたときに、神戸大学の先生がやってきたのでした。

 さて、1カ月にわたるダイプリ号船内の活動が第一幕とすれば、この事件には第二幕があります。危機の中から、彼らは教訓を引き出し、「神奈川モデル」という国内のコロナ対策の下敷きになる医療体制モデルを作り上げていくのです。しかも、ここで中心となったのは、神奈川には何のゆかりもない若手研究者です。県顧問の肩書は持っていますが、それは別の医療保険手続きに関する県とのコラボ事業のために便宜的にもらった肩書にすぎません。なぜ、彼は、「他人ごと」である県の医療モデルづくりに粉骨砕身するのか。それは、彼の父親である元金融庁長官との…………と、ここまでにしておきます(笑)。

 執筆しながら、「反・役人気質」という言葉が勝手に浮かんできました。「役人」とは「前例踏襲に執心する人」、あるいは「ものごとを変えない理由ばかりを考え続ける人」といっていいのかもしれません。いまの日本には、まだまだこんな役人気質の人が幅を利かせている気がします。そういう人を駆逐しないと、日本に未来はないと思います。

 DP4は、永田町や霞が関にはびこっている「忖度」とは無縁です。ただ「いのちを守る」というシンプルな原則にのみのっとって行動していきます。その清々しさを、伝えたかった。それが、本を書いたいちばんの動機であります。もっといえば、こんな人たちが出てこないと、日本はますます衰退していくと思うのであります。

 タイトルは大仰ですが、以上のような経緯からできた本で読みやすくなっています。あ、もっとも私には、高尚な文章は書けませんけれど(笑)。手に取っていただければ、あるいは図書館にリクエストしていただければ、幸甚であります。値段も手ごろです!

(東京社会部専門編集委員、滝野隆浩)

 「世界を敵に回しても、命のために闘う ダイヤモンド・プリンセス号の真実」(毎日新聞出版、税込み1210円)

=東京毎友会のホームページから2021年4月7日

(トップページ→新刊紹介)

https://www.maiyukai.com/book#20210407