2021.04.06
先輩後輩
毎日新聞金曜日朝刊2面の連載コラム「金言」(kin-gon)の筆者・論説委員の小倉孝保さん(88年入社、カイロ支局長→ニューヨーク支局長→欧州総局長→外信部長→編集編成局次長)が日刊ゲンダイに「伝説のストリッパー一条さゆりとその時代」を連載している。
何故?と思って調べると、小倉さんは大阪本社社会部時代に、釜ヶ崎に住んでいた晩年の一条さゆりにインタビュー取材を重ねていた。
一条さゆりが1997年8月3日に60歳で亡くなり、その訃報を社会面に書いた。さらに全文1742字にのぼる評伝?も執筆した。
その後、『初代一条さゆり伝説—釜ヶ崎に散ったバラ』(葉文館出版1999年刊)を出版した。
《私が一条を訪ねるようになったのは前年(96年)5月だった。東京オリンピックの年に生まれた私にとって、「一条さゆり」という名前に深い感慨はなかった》
《「ストリップの世界で一時代を作った人」「わいせつ裁判で権力と闘った女性」という知識だけはあった。その女性が、日雇い労働者の町、大阪・釜ヶ崎で生活保護を受けて一人で暮らしていると聞き、連絡を取ったのが最初だった》
《私の頭にあった、「一世を風靡」「幻のストリッパー」「特出しの女王」というイメージと、「労働者の町」「生活保護」という現実がおよそかけ離れた感じがして興味を覚えたのだ》
《電話を持たない一条に、手紙で会いたい趣旨を伝えると、彼女はすぐに電話をかけてよこした》
おもろいネタは取材して紙面化する。大阪社会部「街頭班」育ちの記者は、どん欲だ。
小倉記者もその典型で、海外特派員になっても現場第一、突撃取材を続けている。
ニューヨーク特派員だった2008年1月に、ロサンゼルス郊外の高級住宅街に住んでいた元外信部長大森実さんにインタビューしている。大森さんは、その2年後に88歳で亡くなり、小倉記者は「記者の目」を書いている。
大森さんは、大阪社会部の伝説の特ダネ記者だった。
「記者の目」にこうある。《大森さんは終戦と同時に毎日新聞記者になった。大阪本社社会部を経てニューヨーク、ワシントンの特派員を経験、66年に退職している。その2年前に生まれた私は、外信部長として指揮した連載「泥と炎のインドシナ」に代表される大森さんの記者としての実績を同時体験しているわけではない。しかし、学生時代から国際報道に関心を持ち、どこかで大森さんの存在を漠然と意識し、入社の動機の一部には、「泥と炎のインドシナ」があったように思う》
《実際に記者になって特派員の道に進むと、大森さんの成し遂げたことの大きさに圧倒された。60年のアイゼンハワー米大統領の訪日(安保闘争の混乱で途中で中止)に同行して特ダネを連発、ボーン国際記者賞(現在のボーン・上田記念国際記者賞)を受賞。65年1月からの連載「泥と炎のインドシナ」で新聞協会賞に輝いた。インドネシアのスカルノ大統領(当時)と会見してハノイ訪問のあっせんを依頼、同年9月、西側記者として初めて北爆下のハノイからリポートした。このうちのどれか一つでも、記者としては評価されるはずだ。まさしく近寄りがたいほど大きな先輩だった》
◇
『大森実伝—アメリカと闘った男』は、毎日新聞社から2011年に出版された。
新聞に書いた原稿をフォローして、出版に結びつける。精力的だ。
『戦争と民衆—イラクで何が起きたのか』(毎日新聞社2008年刊)
『ゆれる死刑—アメリカと日本』(岩波書店2011年刊)
『柔の恩人—「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館2012年刊)
『三重スパイ—イスラム過激派を監視した男』(講談社2015年刊)
『空から降ってきた男—アフリカ「奴隷社会」の悲劇』(新潮社2016年刊)
『がんになる前に乳房を切除する—遺伝性乳がん治療の最前線』(文藝春秋2017年刊)
『100年かけてやる仕事—中世ラテン語の辞書を編む』(プレジデント社2-19年刊)
『ロレンスになれなかった男—空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯』(KADOKAWA2020年刊)
◇
「一条さゆり」連載のきっかけは、日刊ゲンダイが『ロレンスになれなかった男』を書評で取り上げたこと。その際、「日刊ゲンダイで連載できるネタがないか」と尋ねられ、『初代一条さゆり伝説』の著作を話したという。
連載が始まって、反響は「会社は許可したのか」。
小倉さんは言う。「日刊ゲンダイから依頼があったとき、会社の知財担当部署に相談し、本人の著作権利用ということでOKをもらい、所属長の許可をもらい、人事部に書類を提出しています。つまり社内手続きはすべて済んでおります。ご了解ください」
連載は6月まで続く予定という。
(堤 哲)=東京毎友会のホームページから2021年4月5日
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