2021.02.02
先輩後輩
永田町や霞ケ関の「ムラ社会」には旧態依然とした慣習が多く残っている。2017年にムラに足を踏み入れてみると、住民たちの生態が面白く、おかしく、バカバカしく映った。同業だったムラの記者たちも興味深かった。すごくムラのことには詳しいのに、外には少ししか伝えないのが不思議だった。
ムラ生活の最後には、全体への目配せを欠かさない助役の近くで、新たな角度からムラを眺めることができた。助役は新参者の記者にも丁寧に接し、義理堅く、人間味のある人物で、見方を変えれば記者を手なずけるのが上手だった。目立ちたがり屋の村長を縁の下で支えて、役場の人たちからは畏怖されていた。
でも、村長が病気になった時、まさか助役が名乗りを上げるとは思わなかった。近くで見ていても、助役には助役がぴったりなのであって、「村長」というタイプではなかった。口下手だし、秘密主義だし、堂々と表舞台で引っ張っていく力に欠ける。周りから推されても固持すると思っていた。
新村長は外の世界でも当初は歓迎されたが、リーダーとしての資質や人柄がよく理解されているとは思えなかった。だから、間近で見聞した助役時代の姿や言葉、ムラの記者たちとの関わりなどをまとめた見聞録を記すことにした。
前村長の時代から流行病が広がって、ムラは混乱が続いている。新村長は言葉足らずな面が露呈して、「指導力不足」と批判されている。助役時代に近くにいた記者として、そうした実像をほとんど伝えてこなかったことには責任を感じる。
見聞録にはムラの記者たちへの批判も記した。ムラの記者たちを「村の御用聞き」「広報紙」なんて揶揄する人たちもいるけれど、個々の記者を見てみれば「権力の監視」という意識を持っている記者が大半だ。相手の懐に潜り込んで情報をとってくることに長けた記者も多い。問題はそれをどう外に伝えるのかということだと思う。ムラを離れた自分ができなかったことを求めるのはおこがましいが、記者魂をどんどん発揮してほしいと思う。
(秋山 信一)
「菅義偉とメディア」 定価:1320円(税込) 毎日新聞出版
【秋山信一記者プロフィール】
1980年、京都市生まれ。2004年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部本社(愛知県)、外信部、カイロ支局長を経て、2017年に政治部へ。外務省、防衛省を計2年半担当した後、2019年10月から約1年間、菅義偉内閣官房長官の番記者を務めた。2020年10月に外信部に配属。
=東京毎友会のホームページから2021年1月19日
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