2020.07.05
先輩後輩
コロナ自粛を活用して、なんと小説をオンデマンド方式で出版するという挑戦をした。
小説を書くのはもちろん初めて。オンデマンド出版の作業をするのも初めて。とくに、IT技術に弱い85歳にとっては、自力で後者をやり遂げるのは悪戦苦闘であった。入稿から組版まで、簡単にいえば、出版局がやる仕事を全部自分でやるのである。
中でも表紙制作は難しかった。実に単純な、デザインなしの表紙なのだが、私のPCに入れているAdobeのバージョンが新しすぎて、古いバージョンを使えと指示が来たのには大変困った。あれやこれややっているうちに、突然うまくいく。ところがそれを再度やろうとすると、手順を忘れてしまっていて、再現できない。みっともないが、この年齢ではやむを得ない。
しかし、先方のマニュアル通りに出来上がって送信すると、3日か4日たてばこの本をアマゾンが売り始める。だれのチェエックもない。しかも、私が負担した費用は、ISBN番号の取得費5,000円と、表紙制作支援費1,000円だけである。
売値はこちらが決める。アマゾンは、売値の40%の販売手数料と、印刷費を引いて残りを私に振り込んでくれる。私の場合、税込み2,200円と値を決めたのだが、手取りは150円ほど。印税と似たようなものである。
やってみて改めて実感したのは、誰でもが書籍を出版できる時代になった、ということである。だれでもがニュースを発信できるようになって情報のゲートキーパーがいない時代になっているが、出版もそうなっているのだ。ちょっとした技術を持てば、どのような本でも出版できる。出版コストも極めて小さい。
私のような素人が書く小説を出版してくれる出版社などありえないのだが、それをアマゾンという巨大流通会社が宣伝も販売もやってくれる。出版社のゲートキーパー機能も失われる。オンデマンド印刷だから在庫は発生しない。買う人があれば直ちに印刷・製本して発送してくれる。翌日には届く。アマゾンが存在するかぎり、絶版はない。
言論の自由、出版の自由はここまできている、ということを肌身にしみて実感したのである。
肝心の小説の説明をしておかなければならない。
題名は『耳順居日記』。作者は「檜 節郎」。小説家としての私の名乗りである。
明治維新の原点ともいうべき神仏分離政策による混乱から話は始まる。話は大きく分けて三つの流れが絡んで進む。一つは、廃仏毀釈に関わって娘二人が連れ去られた華兵衛の家族愛。二つには、廃仏毀釈によって需要を失った老舗法衣商たちがそれをどう乗り越えていったか。三つ目は、華兵衛の思い切った転業を支える二人の若者の友情。明治維新から終戦までの80年の物語である。
(元東京代表・秋山 哲)
=東京毎友会のホームページから2020年6月26日
(東京毎友会→元気で~す)