2020.06.01
先輩後輩
2019年春学期に開講した「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座の講義録である。「本書では、ジャーナリストの方々が多面的かつ徹底した調査・取材で得たファクト群について、それらにどのようにたどり着いたか、生々しい経験や手法が語られる」と、瀬川至朗早大政治経済学術院教授(元毎日新聞記者)が「はじめに」に書いている。
トップバッターが、毎日新聞・遠藤大志記者(1985年生まれ)。2018年度の新聞協会賞を受賞した「旧優生保護法を問う」。仙台支局時代に「旧法の違憲性をめぐり宮城県の被害女性が史上初の国家賠償を起こす方針であることをスクープして以降、法律の問題点を世に問うキャンペーン報道を展開」した。
他に「#Me Tooとジャーナリズム」(伊藤詩織)、「日産のカルロス・ゴーン転落劇の取材」(ハンス・グライメル)など。
あとがきで瀬川さんは書いている。
選考委員の吉岡忍さん(作家、日本ペンクラブ会長)は、贈呈式の講評において以下のように指摘している。
いったいジャーナリズムにおける力作とは何でしょうか。
今回の大賞、奨励賞の作品に共通していることは、記者や制作者自身が「知りたい」「理解したい」「わかりたい」と切実に思ったことをテーマにしている、ということです。そのテーマをしっかり保持しながら取材し、考え、また調べて、作品にしています。(中略)あくまで自分の関心に忠実に、脇目も振らず、まっすぐにテーマに突き進んでいく。これが力作を生む最初の条件です。
もうひとつ、ジャーナリズムではしばしば「公正・公平・中立」が大事だ、と言われますが、少し乱暴な言い方をすれば、そんなことを言っているうちは取材や思考が足りない、ということです。記者や制作者がほんとうに知りたいと思ったことを取材し、調べ、そこで手にした事実に基づいて考えに考えていけば、だんだんにわかってくるのは究極の事実、これしかないという真実です。そこまでたどり着いたとき、力作が生まれる。
優れたジャーナリズム作品の特質が、吉岡さんの言葉で端的に語られている。
早稲田大学出版部、1019年12月刊、1800円+税
(堤 哲)2020年5月24日
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