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新刊紹介 「生類憐れみの令」の真実(仁科邦男著、草思社)=東京毎友会のHPから

2019.10.11

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「生類憐れみの令」の真実

 著者の仁科邦男さんは、社会部記者から出版局長、毎日映画社社長などを歴任したが、こうした経歴よりも、いまや「犬」研究の第一人者として知られている。

 関係の著書は「犬の伊勢参り」(平凡社新書)、「犬たちの明治維新 ポチの誕生」(草思社)、「犬たちの江戸時代」(同)、「西郷隆盛はなぜ犬を連れているのか」(同)がすでに出版されており、NHKの番組「日本人のおなまえっ!」にも出演したことがある。「名もない犬たちが日本人の生活とどのように関わってきたか」。これが、仁科さんのライフワークのテーマとなっている。

 今回、新たに上梓した著書について、仁科さんは「生類憐みの令のことを調べようと思ったのは、大学の受験勉強中でした。その後、毎日新聞に入ってからも、気になって時折、調べていたのですが、結局、既存の歴史学者の研究に納得がいかず、自分で一から史料調べを始めました。30年くらい経てば、今の誤謬に満ちた教科書、辞書、辞典類の記述も少しは変るかな、と思ってこの本を書きました」とコメントしている。

 その調査ぶりは、巻末4ページにわたって、小さな活字で列挙されている参考図書、引用図書・雑誌一覧を見れば、よく分かる。国立国会図書館は言うに及ばず、「折りたく柴の記」(新井白石)など著名な文献だけでなく、「盛岡藩雑書」「南紀徳川史」など日本全国にちらばる史料を探し求め、こまめに検証してきた成果が、この本に込められている。

 戌年生まれの徳川第五代将軍綱吉が発布した「生類憐みの令」。その評価は、「悪法中の悪法」といわれた時代から、最近は見直しの動きが顕著になっているという。大まかに言えば、綱吉の治世が、動物愛護の精神に支えられ、人間を含め命の大切さを再認識させた、とする見方が、最近の再評価のポイントだ。しかし、著書はこの見解を「私の見解とは相いれない」とばっさりと切る。

 その論証のために、渉猟した史料をひとつ一つ引用して論証する。膨大な参考文献の中から、たった一行を見つけ出し、記録する。読者は、気の遠くなる作業に付き合わなければ、この一冊を読み通すことは出来ない。

 この労作は、丸善の歴史関係のコーナーなどに平積みされて、読者を待っている。仁科さんを知っている人も知らない人も、ぜひ手に取ってほしいと願っている。

(高尾義彦)=東京毎友会のホームページから2019年10月10日

https://maiyukai.com/info.html#shinkan(東京毎友会→お知らせ→新刊紹介)