閑・感・観~寄稿コーナー~
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青函トンネルの思い出(入口 邦孝)

2023.12.13

閑・感・観~寄稿コーナー~

 長年撮り溜めた写真を整理する中で、以前にも2021年12月にこの欄で北海道奥地のタウシュベツ廃線橋を紹介しましたが、今回は33年以上も前のことになる青函トンネルが開通して間もない頃の、今はもう見ることの出来ない写真がありましたので取り上げてみました。

 昨年(2022年)、NHKが日本で初めて新橋―横浜間に鉄道が開通して150年ということで、日本で最長距離を走る豪華寝台特急、上野―札幌間を19時間で結ぶ「カシオペア」(現在は廃止)を取り上げていました。その放送を見た時、私はすぐに大阪―札幌を結んだ寝台特急「トワイライトエクスプレス」を思い出しました。

 当時、「トワイライトエクスプレス」は大阪駅を昼の12時に発車し翌日の午前9時過ぎに札幌駅着、大阪―札幌間1,500kmの北陸、信越、羽越、奥羽各線を経由したいわゆる日本海縦貫ルートを北上し、青函トンネルを経て約21時間で走りました。放送では紹介されませんでしたが、この列車こそが日本最長の寝台特急だったのです。

 もう22年以上も経ちましたが、2001年(平成13年)に家内が札幌に居る長男宅に行くについて、いつもは飛行機で行くところを、旅費が高く付くものの家内の誕生日祝にと寝台列車で津軽海峡を青函トンネルで抜ける陸路をどうかと勧めたのが、寝台特急「トワイライトエクスプレス」でした。家内一人旅で、食堂車での夕朝食は家内好みの豪華メニューを予約しました。

 そして、送り出した私は途中の暮れ行く日本海沿岸の風景と予約したコンパートメントや食堂車での様子などを地図を見ながら、今頃はどのあたりを通っているかなどあれこれを想像したものです。今でも、家内はいい思い出になっていると言ってくれますが、それだけに、夫婦二人で行くべきだったなどと思い返しています。

 青函トンネルは1988年(昭和63年)に完成しました。その翌年の1989年(平成元年)6月1日に札幌で日本新聞協会の技術専門部会があり、協会の技術委員だった私は帰路を飛行機にしていたところ、帰途を陸路にしたいと言う東京へ帰る日経新聞社の同僚委員の誘いで、前年に開通したばかりの青函トンネルを。「海峡」という快速列車で函館から青森に抜けたことがあります。

 当時は東北新幹線が盛岡までしか開通していなかったので、青森からは在来の東北本線で盛岡へ行き、東北新幹線の東京上野行きに乗り換えました。函館―青森間には、青函トンネルが開通して青函連絡船が廃止された代替として快速列車「海峡」が一日に何本か運行され、「海峡3号」などと号数が付いていました。

 快速列車「海峡」は車内出入りドアの上に青函トンネル内の走行位置表示装置(写真①②③)があり、青函トンネル54kmの走行位置状況を1kmごとに赤ランプを点灯させて、トンネル内のどの辺りを走行しているかがわかるようになっていました。写真③(少しわかりにくいですが)の、トンネル内を点々と続くのが1kmごとの列車走行位置表示ランプで、写真は北海道側からトンネル内30kmの地点を走行している現在表示です。世界最長の海底トンネルでもあり、1kmごとに進むランプ表示を「もうすぐ最深部やなあ」と同僚の日経新聞社委員とともに飽かずに見入ったものです。

 青函トンネルには非常時の避難口として北海道側に吉岡海底駅、本州側に竜飛海底駅(写真④)が設けられていて、写真は私の乗車した列車が同駅に停車した時のものです。私は降車出来ませんでしたが、当時は乗車券購入時に見学予約をしておくと乗降出来、次の列車までの間にトンネル内のいろんな機器・設備や計器類のほか、避難経路をケーブルで地上まで上がるなどの見学が出来ました。

 本来、この海底駅は常時のトンネル内のメンテナンスや非常時の避難用の駅で、現在は駅としては廃止されており、この海底駅の表示板はとても貴重な写真です。現在は青函トンネルの本州側入口である津軽半島の突端にある竜飛岬に青函トンネル記念館があり、斜坑ケーブルで旧竜飛海底駅まで下りることは出来るようです。

 新幹線が函館まで通じ、札幌まで更に延伸されるでしょうが、関西から北海道へ時間のかかる陸路で青函トンネルを使って行く人は多くないでしょうし、かつての快速列車「海峡」に乗られた人もおられるとは思いますが、開通して間もない青函トンネルを通過した列車の、今では見ることも出来ない珍しい「表示装置」と「海底駅」を紹介しました。

 調べてみますと、海底トンネルでは青函トンネルの6年後に開通したイギリスとフランスを結ぶドーバートンネルがありますが、トンネル長は青函トンネルの53.85kmに対しドーバートンネルは50.45kmと、今でも青函トンネルが世界最長の海底トンネルのようです。また、海底の最水深部もドーバートンネルの60mに対し青函トンネルは実に140mと深く、物凄い水圧に耐えるために海底から更に100mも深く掘り下げていますので、その難工事が伺えます。因みに鉄道トンネルとしては、7年前の2016年に開通したスイスのゴッタルドベーストンネルが57.1kmと青函トンネルを抜いたようです。

                           (旧印刷局、入口 邦孝)

写真① 快速「海峡」内ドア上部の青函トンネル走行位置表示装置1

写真② 快速「海峡」内ドア上部の青函トンネル走行位置表示装置2

写真③ 北海道側から30km地点(1kmごとの表示ランプが点灯)=最深部

写真④ 青函トンネル内の「竜飛海底」駅(左北海道、右本州)