2023.11.27
閑・感・観~寄稿コーナー~
「古典は知の財産。読まない人は人生を掌握できず、ただ海上を漂うようなもの」.トルストイのそんな言葉にせかされて、ここ1,2年、本の森を逍遥してまして…。特段分野を決めぬ「乱読御免」状態。折しも毎友会事務局から「何か寄稿を」と声掛かり、近刊書の傾向を1、2項書かせていただいた次第です。あくまで森の中のごくごく一部。
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さて、いきなりですが、日本は「主権国家だ」と思いますか? 近刊書を読み漁ると以外に「そうでもない」との見解に遭遇します。「そんなはずない。主権・領土・国民の3要件を備えているのに」と思いがちですが、主権国家か否かは交渉相手国が決めること、とすればどうでしょう? たちまち怪しくなってしまいます。
例えば「日本は真の主権国家でない以上、わが国と対等ではあり得ないとロシアは考える」「日本は米国パワーに取り込まれた異質国家」(亀山陽司)との言葉に出会うとグサッときます。北方領土交渉が進まない背景にはこうしたロシアの日本観もありそうで「北方領土は米ロ問題であり、日本に決定権はない」(亀山)にもギクリです。中国も似た日本観だとの指摘も。果ては…「米国がもし日本を見放したら中ロの侵略を誘引する」と危機感を煽る言説も。米中ロはこの21世紀でも本当に日本を「真の」主権国家とは見なしてないんでしょうか?
この点に関しては「自民党の主導権は本来戦時体制と決別した人たち(吉田学校系)が握っていたが、いつの間にか戦時体制側が本流になりグロテスクな親米派が多数になった」(古谷経衡)ことの功罪も小さくなさそうです。
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民主主義についても新刊が続々。制度疲労論・危機論が盛んです。ウクライナやガザでの惨劇で拍車が掛かり、ベルリンの壁崩壊とともに世に出たフランシス・フクヤマ「歴史の終わり」説の追認派はいまや少数のようです。宇野重規は危機の原因を、ポピュリズムの台頭、独裁政権国家の増加、第4次産業革命、コロナに求め整理しています。「AIアルゴリズムが将来民主主義を攪乱する」(ハラリ)や「民主主義機関は一つの巨大情報処理システム。真偽暴く機関とみるのは期待しすぎ」(ガブリエル)との言葉にもハッとさせられます。独裁・専制国家の増加に有効に対処できないまま、民主主義陣営内での機能不全と退潮は何としても避けたいところでしょうが。
日本国内の民主主義についても悲観論優勢です。とりわけ、あの安倍一強政権8年間に対する批判は猛烈。「選挙至上主義で、説明責任無視貫く」(御厨貴)「選挙とポスト握られ政治家無力に」(村上誠一郎)「安倍氏は力の言葉を言葉の力と勘違いした」(福島申二)「安倍氏は日銀の独立性奪い打出の小槌にした」(浜矩子)等々。マスコミ含め周辺を敵・味方に振り分け数々の捏造・隠ぺいを重ねた歴史が多々書籍化されているのは衆知の通りでしょう。
こうした政権の出現に関しては、「代議制民主主義を問い直せ」(待鳥聡史)など、世襲規制を含めた選挙制度の見直しを促す言説が多々見られるようになっています。
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街頭班・遊軍として街中を駆け回り、一方、編集現場で紙面割り振りに悩み続けた長歳月。毎日、各紙のスクラップ作りに精一杯で、じっくり本に目を通すことも怠りがちでしたが、となってはスクラップ帳は高く積み上がったままでページ繰ることもほとんどなし。まさか書店・図書館通いの方が面白くなってしまうとは。目下のところ政治・外交関連のほか『がんの消滅・光免疫療法』『世界最高峰の研究者たちが予測する未来』『教養を磨く』『負動産地獄』『そら、そうよ(岡田彰布)』などがスタンバイ中です。このラインナップでは、トルストイのいう「人生を掌握できた」と実感できるのはまだまだ先のようですが、一読三嘆、驚きをもって森を逍遥しようと思っています。
(元編集制作センター 北川 達之)