2023.11.05
閑・感・観~寄稿コーナー~
繰り上げ定年で退職後8年あまり。今年(2023年)3月末で常勤の神戸大学は任期満了で退職し、4月から桃山学院大学の広報アドバイザーになりました。大学の広報活動が、記者会見など既存メディア向けから、ホームページでの発信、SNSや動画(YouTube)重視に移りつつありますが、まだまだ新聞記者OBの役割はあるようです。
神戸大学では理事補佐(危機管理担当)という肩書で、不祥事の記者会見や大学幹部のメディアトレーニング(模擬会見)、海外危機管理のシミュレーションなどが主担当でした。しかし、「危機」はそんなに頻発するわけではないので、普段の仕事を探す必要がありました。そこで、研究者のデータベース作り、研究者紹介のインタビュー記事作成、教員の得意分野を生かしたシンポジウム開催などに取り組んでいました。特に研究者のインタビュー記事は、ローカル鉄道の存廃問題や神戸空港の国際線就航など時事的な話題の解説が、検索サイト経由でアクセスを集めるので、今後の広報活動の柱の一つに位置付けていました。マスメディアに頼らない広報のウェイトが高まっているのは、こんなところにも要因があります。
神戸大退職後は完全リタイア生活に入ることも考えましたが、もう少し働きたいなと思い、旧知の桃山学院理事長に危機管理と教員紹介記事の作成などを提案し、非常勤の広報アドバイザーにしてもらいました。日本大学の一連の不祥事と記者会見の大失敗から、危機管理の重要性が大学関係者に強く意識されていることがアドバイザー起用の背景にあるのでしょう。
国立大学と私立大学では広報活動の重点は全く異なります。神戸大学では研究成果とスター研究者の紹介を重視していましたが、桃山学院大学では志願者数に直結する入試広報が中心です。私の仕事も教員紹介ではなく、学生やOB・OGの活躍ぶりを紹介するインタビュー記事中心に変わりました。
また、コロナ禍を経て、リモート(zoom)でのインタビューや、書面アンケートに記述してもらいそれを記事化するなど、取材スタイルも変化しています。対面で話を聞き、雑談の中からその人の性格や面白いエピソードを探り出すのがインタビュー取材の楽しみでしたので、戸惑いも少々ありますが、20歳前後の若者の本音を聞くのは、「目からうろこ」の連続です。トップ校ではない桃山学院大学の学生は高校時代までスポーツなどに打ち込み、「勉強は得意でない」と思い込んでいることがあります。でも、話をしてみるとしっかりした受け答え、前向きな姿勢が素晴らしい、「伸びしろがいっぱい」の若者たちです。神戸大学の学生や経済部記者として付き合った大企業のエリート社員とは一味違うエネルギーを持っています。
リモートなどの省エネ取材ができるようになった一方で、記者会見の開催は極めて難しくなっています。地方紙も含め、記者数が減っているのにネット向けの読み物などの仕事が増えているそうで、よほどニュースバリューが高くないと記者が会見に来てくれません。 神戸大学ではとうとう、2か月に1回開催していた学長の定例記者会見を廃止してしまいました。
桃山学院大学のサッカー部員がJリーグのセレッソ大阪に入団することになり、「記者会見を開きたい」と相談されたときは困りました。大阪府南部の大学キャンパスまで社会部の記者が足を運んでくれるとは思えません。大阪運動部の現役記者に関西運動記者会の連絡先を教えてもらって、運動記者に会見案内を流し何とか格好をつけましたが、「後輩記者を呼んでくれるだろう」という大学職員の期待に応えるのはなかなか大変です。
桃山学院大学では今のところ、謝罪会見を開くような問題は起きていません。しかし、もしもの時に備えて、日本大学の対応などを横目で見ながら頭の体操はしています。追及する側(=矛)の記者が、防御する広報マン(=盾)になるのは、矛盾そのものかもしれませんが、メディアの変化と若者の元気さに刺激を受けながら、第3の職場でもう少し頑張ろうと思っています。
(元経済部、山口 透)