2023.09.08
閑・感・観~寄稿コーナー~
この9年間にわたる台湾の情勢をまとめた『現代台湾クロニクル 2014-2023』(白水社・2750円)を2023年9月初めに出版しました。本書は一般財団法人「台湾協会」の月刊機関紙『台湾協会報』に2014年2月から2023年1月まで、「最近の台湾情勢」のタイトルで連載した記事100本余りの中から選び、編集したものです。
「台湾協会」は、台湾からの引き揚げ者の支援組織を母体として1950年に設立された歴史ある団体です。現在は、日台間の相互理解促進のための活動や台湾関係者の追悼法要、台湾に関する重要図書・資料の収集と閲覧などを行っています。会員は台湾専門家や親台湾家ばかりですので、時には鋭いご指摘もいただきながら、長期連載を任せていただきました。関係者のみなさんには、感謝の言葉しかありません。
連載はその時々で、台湾に関する最もホットなニュースを取り上げているので、分野は政治、外交、対中関係、経済、社会など多岐にわたります。書籍化に当たっては、「波乱続きの政権運営」「激しさ増す中国との攻防」「孤立打破に挑む外交」「山積する課題に取り組んだ内政」「世界のものづくりを支える経済」「自己主張強める社会」の6章で構成しました。『台湾協会報』掲載時から時間が経過して結論が出たり、新展開があったりした場合は、注釈や続報を追記して、最新事情がわかるようにしていますので、台湾社会の変化も実感していただけると思います。
個々の記事は公開ずみなのですが、テーマごとに分けて整理し、時系列に並べた1冊の本として読むと、新たな発見があります。
まず、4年に1度の総統選やその中間年に行われる統一地方選は、有権者の民意がはっきりと反映される状況が浮かび上がります。台湾はすでに3回も政権交代を経験していますが、中央でも地方でも、政府は目に見える成果をあげなければ、投票によって退場させられます。政治と大衆の距離が近い台湾ならではですが、民主主義の原点を見る思いがします。
中国との関係では、次第に習近平政権の圧力が増し、軍事的な威嚇も常態化していった様子が見てとれます。蔡英文政権もそれに応じて、中国に対して「1国2制度」反対を前面に押し出して、毅然とした態度を示すようになり、台湾海峡は緊迫の度を増してきました。
一方、米国はトランプ政権になって、台湾への肩入れが目立つようになり、バイデン政権に代わっても台湾優遇政策は引き継がれています。日台は災害が起こるたびに互いにエールを送り合うなど良好な関係が続き、日本政府が中国への配慮から、台湾に対して取っていた冷遇策も順次、正常化させていく経緯が描き出されています。
経済面では、最先端の技術力を誇る台湾積体電路製造(TSMC)を中心とした半導体産業の躍進ぶりが際立ちます。日本国内でも台湾有事が現実味を帯びて語られるようになる中、半導体産業は今や、安全保障上でも台湾を守る役割を果たしています。
内政面では、新型コロナウイルスの感染を封じ込めた初動措置や、アジア初の同性婚合法化、脱原発政策など、日本も参考になるような政策がどのようにして意思決定され実行されたのか、検証・分析しています。
本書が扱っている9年間は、ほぼ蔡英文政権の執政期と重なります。全体を通して読んでいただければ、この時期に、なぜ台湾がこれほど世界で存在感を高め、国際社会で重要視されるようになってきたか、理解していただけることでしょう。
そのような狙いを込めた本書は、9年間にわたる台湾の奮闘ぶりを記録したものでもあるので、書名は「現代台湾クロニクル」としました。「クロニクル」とは年代記のことです。台湾に詳しい人には直近の過去を振り返る「年表」「日記」として、これから台湾について調べたり、学んだりしようと考えている人には「案内書」「入門書」として活用していただければ幸いです。台湾にご関心ある方は、ぜひ読んでみてください。
(元論説室、近藤 伸二)