2019.04.01
閑・感・観~寄稿コーナー~
友人が性善寺(しょうぜんじ)という寺の住職になりました。大阪府守口市大枝西町にある小さな寺です。2019年2月24日に寺で晋山式、続いてホテルで披露宴があり、その司会役を頼まれ、珍しい体験をさせてもらいました。
新住職は柴谷宗叔といいます。お遍路さんのための休憩所をつくる活動「ヘンロ小屋プロジェクト」で、2006年に出会いました。性同一性障害という生きづらい道を歩み、しかも阪神大震災で自宅が被災したことで、会社勤めをやめ、高野山大学に入学しました。やがて大学院を修了し、密教学で博士号も取得しました。
その間に手術を受けて女性になり、戸籍も変えました。そんな境遇なので、柴谷さんの道筋は、例えば僧籍簿を男性から女性に変えること、あるいは住職になることなど、「性同一性障害」という前提をつければ、長い高野山真言宗の歴史、ひいては日本の仏教史で何もかものが初めてなのです。
そんな芝谷さんは知り合った時から、「性的マイノリティーの人たちが気軽に訪ねて来られるような寺をつくりたい」と話していました。それがかなったのです。後継者がいなかった寺を、壊す直前に譲り受けるという奇跡的な形で。遍路に行くと札所などに、農民詩人・坂村真民の「念ずれば花ひらく」の詩碑をよく見かけますが、まさに強い思いの上に、夢が正夢になりました。
晋山式は知らない仏教用語のオンパレードで、ずっと不安に思っていました。ところが式の前日から、「会奉行(えぶぎょう)」なる僧が九州からやってきて、式を取り仕切ってくれたのです。ホッとしました。私の出番は開式と閉式の言葉、取材にきていたマスコミ対応くらいでした。
披露宴120人近くの出席でにぎやかでした。高野山真言宗の元宗務総長、西国22番総持寺の山主、大阪府河内長野市・観心寺の名誉住職、四国霊場28番大日寺住職、「家田荘子」の筆名の方が知られている丸太紫永さんといった、多彩な顔ぶれ。
ただ、披露宴なので固苦しいものにはしない、という本人の意思だったので、気軽に宴を進めました。ただし、司会の役割上、飲んだり食べたりはほとんどできなません。そこで、その後の2次会で飲みまくりました。(梶川 伸)