閑・感・観~寄稿コーナー~
SALON

アルバムを再整理して海外旅行を追体験(森岡 忠光)

2020.10.18

閑・感・観~寄稿コーナー~

 春先から外出機会がめっきり減ったのを機に、主に退職後に楽しんだ海外旅行の写真アルバムを再整理し始めた。アルバムは、はじめのうち百円均一ショップにある一冊80枚ほど入るのを、その後無印良品で見つけた140枚入りのを使い、すべて自分でプリントし、日付順に並べた。1回の旅行で4~5冊、400枚前後もあり、全部合わせると膨大な枚数になった。可能な限りキャプションを書き込んでおかないと、後で見返しても何が何だか分からなくなる。それがきっちり出来ていなかったので、コロナ自粛を機に再整理しようと思い立った。頼りはインターネットとユーチューブである。

 数えてみたら、旅行先はヨーロッパばかり計9回(イギリスとドイツは行ってない)。すべて妻と行ったツァー旅行で、主に世界遺産と名画をたどる旅である。どうしてかというと、2000年から2001年にかけて講談社が「週刊世界の美術館」、小学館が画家別の「週刊美術館」を競うように出していて、妻がこの両方を愛読していたことが大きい。いずれは現地に行って実物を見たいと思っていたようだ。旅行前には、行き先の美術館や教会にどんな名画があるか、関連するメディチ家、ブルボン家、ハプスブルク家に関連する本を読むなど予備知識を仕入れた。

 どの旅行でも私ほど写真を撮りまくっている人はいなかったと思う。オランダのアムステルダムでは、バスで移動中、女性の騎馬警官とすれ違い、とっさにシャッターを押した。同じツァーの客で気づいた人がいたかどうか。さっそうとした騎乗姿は、カメラを構えていなければ撮れない一枚だった。

 カメラは近年になってミラーレス一眼に、レンズも少し張り込んで広角からかなりの倍率までズームできるのを1本買った。それで撮れたのが、ノルウェーの山岳鉄道沿いにある「ショースの滝」で出会った、真っ赤な衣装の妖精。観光客向けに地元の伝説をショー化したもので、列車が停車すると、滝の近くの岩陰から突然音楽に乗って現れ、わずかな時間だけ踊って姿を消す。肉眼では小さくしか見えず、気付かない人もいたが、望遠でくっきりとらえることが出来た。

 ベルギーの首都ブリュッセルでは夜にホテルに向かう途中、巨大な建物に遭遇。ほぼ見当はついたが、インターネットで調べるとやはりEU本部だった。EU関連のニュースを目にするたび、車内から撮った一枚が思い浮かぶ。

 ヨーロッパの美術館は撮影禁止、ノーフラッシュなら撮影OKの両タイプあり、オランダではアムステルダムの国立美術館と、広大な森の中にあるクレラー・ミュラー美術館のいずれもOKだった。数多くの名画を実物で見ても、画集で見たのと印象がごちゃごちゃになって記憶に残りにくいこともあり、両美術館では片端から作品を撮影。今回、画集やインターネットで可能な限り調べ、ゴッホやレンブラント、フェルメールら画家名と作品名をアルバムに記入した。

  ツアー旅行の自由時間中に見学した中で特に印象深かったのは、ブダペストでの民族舞踊とプラハでのマリオネット・オペラ。どちらも現地の劇場でしか味わえない民族色豊かな芸術文化だった。このほか、「フランダースの犬」のラストシーンに登場するアントワープ大聖堂のルーベンスの祭壇画、スパルタ王がトロイとの戦争を決意する神託を巫女から受けたとされるギリシャのデルフォイ遺跡なども懐かしい。

 また、ノルウェーのオスロにあるフログネル公園は、グスタフ・ヴィーゲランという日本ではあまり知られていない彫刻家の作品だけが広大な公園に配置してあり、ほとんどは花崗岩かブロンズ製の裸像。「人生の諸相」をテーマに子供から老人まで200体以上の群像はまさに圧巻で、現地に行かない限り鑑賞できない。時間的に余裕がなく、もっと丁寧に撮っておけばよかったと悔いが残っている。

 9回の旅行で最もアルバムの数が多くなったのはオランダ・ベルギーで、写真の枚数は600枚ほど。それだけ美しい町が多かったからで、とりわけブルージュ、ゲントなどベルギーの町の美しさは格別だった。海外旅行に出かけることはおそらくもうないと思うので、これからも時折このアルバムを開いて追体験ををするのが、わが余生の過ごし方の一つとなるだろう。

                                                               (元編集局・点字毎日 森岡 忠光)

 

アムステルダムで出会った女性の騎馬警官(車中から)
ノルウェーの「ショースの滝」に現れた妖精
オスロ・フログネル公園の彫刻群