閑・感・観~寄稿コーナー~
SALON

私と英語 とくにTMについて(滝沢 岩雄)

2020.08.15

閑・感・観~寄稿コーナー~

 今、日本は英語の大波に襲われていると思う。幕末から明治維新期が第一波、第二次大戦後の連合国による日本占領期が第2波。そしてグローバル化の中での最近、十数年が第3波。小学校の教科にも英語が取り入れられ始めている。ここで英語教育の問題点はとりあえず、カッコに入れ、最近の私の英語との付き合いを。

 まず、トーストマスターズ(以下TMとする)について。TMはコミュニケーション能力と指導力をグループ内で育てようと、アメリカ・カリフォルニアで約100年前発足。以降、順調に成長、現在では143カ国に広がっている、という。日本では1954年、最初に東京でクラブが発足、現在では関東、近畿などを中心に200を超えるクラブが活動している。多くのクラブは地域を軸に結成され、会員の会費と自主的な活動で運営されている。なお職場でTMを作っているところもあるという。運営の関係でクラブは最低20人ほどの会費を払う会員登録がないとアメリカの本部から認められないし、その本部には末端のクラブの会から”上納金”がおさめられる。

 私は、約15年前、英語が堪能な友人の誘いでまず、大阪TMに入った。このTMは月2回午後6時半から、駅前第二ビル内の会議室で開催されるが会社から便利だった。どこのクラブも同じだと思うが、最初の2、3回はゲストとして参加、会の運営、参加メンバーの英語力、また英語を使ったパーフォーマンス能力などを知り、自分の英語力、性格に会うかどうかを考え、正式に会員になるかどうか決める。

 定例会は2時間から2時間半で終了、あとは、よくあるように安い飲み屋でその日の反省などを含め、ぺちゃくちゃやりあう。時にゲストに海外からの客がある場合などはその人を中心に英語が共通語になり、他の客には迷惑かな、とふと気が引ける時もあった(これはコロナ以前の話だが)。

 いくつかのほかの会にも招かれ、行ったことがあるが、どのクラブの定例会の運営は見事なほどよく組織されている。さすがにアメリカ仕込みだといろいろ感心した。

 簡単に説明すると、まず会長の開会宣言があり、その日の役員が紹介される。テーブルトピックセッションと、準備されたスピーチセッションの発表と各人の話の内容へのコメント、そして参加者全員による評価でその日のこの二つのセッションの入賞者が決まり、表彰式が最高の行事として続く。

 その日の役員というのは、その会の半年ごとの役員(会長、教育担当副会長、広報担当副会長、会場係、会計係など)のほか、定例会ごとにその日のまとめ係、全体的な評価者、文法・用語係、テーブルトピックマスター、時間係、集計係を決めて、役割をなるべく参加者全員に割りふっていく。先ほど言ったように会長など役員も半年に交代するようにしており、役員の独占や長期化を防ぎ、また会員全員に会の運営能力を高めさせているのだ。

 例えば、テーブルトピックマスターになると、このマスターは今なら「このコロナの自粛下、どんな風に日々を過ごしてきましたか」など、5,6人の参加者に尋ねる。この回答者は2分間以内に話をまとめるが、なるべくその日はあまり役割がない人に割り振られるようにしている。参加意識を高めるためだ。これはその場で即興的に物語をまとめなければならないから、案外、大変だ。その二分間ほどの答えに対して、参加者全員が評価し、集計係が成績をまとめる。

 これに対し、前もって準備してきたスピーチセッションがその日のハイライトとある。これはあらかじめ、4、5人の会員に対して事前に指名、時間は大体一人7分以内。(例えば、私は最近の会でコロナ騒動に関連、「カミュ・ペストを読んで」と題してとこのスピーチにまとめた)。各スピーチに対する評価者はあらかじめ決まっていて、その人が二分半以内にコメントする(私の先の件で言えば、もっとボディトークを、とか話の中身に応じ、抑揚をはっきりつけるとか、原稿はなるべく見るな、とか)。

 興味深いのはこのテーブルスピーチの発表者だけでなく、評価者の評価にも参加者による採点が下され、表彰されることだ、この表彰回数はTM組織内の実績になり、将来、末端単位のクラブだけでなく、クラブの集合体のエリア(例えば大阪)、ディストリクト(例えば、日本)の役員になるなどの”出世コース”も開かれる。

 私は、坂田財団に常勤で勤務時代は大阪クラブにいたが、月に2回の頻度が意外と重荷になり、7年ほど前、高槻に新しいクラブができたさい、その設立メンバーになった。ただ、このクラブは日本語とのバイリンガルのクラブで、英語の勉強を中心にしたい私にとってあまり合わないので、その後できた茨木クラブに入会している。

 この会にはマレーシア出身の大阪大学の大学院生、アメリカ系の若い男性、ロシア人女性なども入っていて、ゲストも含め、”国際色も豊かだし、また老若男女、多様性に富んでいて、気に入っている。また帰国子女とか海外での勤務経験がある人も多く、英語の水準も高い、と思う。私自身は、人前でのパーフォーマンス能力に劣り、スピーチコンテストでは入賞したことがない、とくに外国人たちとの”競演”では、彼らの俳優のような豊かな表情、体の動きなどを含め、圧倒される思いがあり、残念ながら、自分の力不足を認めるほかない。私はこの8月で”後期高齢者”入りしたせいか、このパーフォーマンス能力に関しては、改善しようとも思わない。

 私はこうして3つのクラブを経験している。それぞれ英語のレベルは違うが、共通しているのは、時間厳守(例えば、スピーチで与えられた時間に5秒でも超過すれば失格。逆に足りなければそれも失格)▽成績評価▽役割分担や役割交代による全員参加の運営。これはアメリカの本部からのマニュアルでもあるだろうが、各クラブのベテランが徹底して浸透させているのだと思う。

 なおクラブは例会が始まるとすべて英語で、約10分の休憩時間の雑談も英語だ。4月からのコロナでの非常事態宣言下では会場が取れず、ズームによる定例会も開かれている。デジタル音痴の私も、会の指導者の手でなんとか参加しているが、深刻にデジタル格差を自覚させられている。

 このほか、他のクラブと協力しての会や、クラブを代表して、エリア大会(例えば大阪エリア)などに参加。さらにそこでスピーチコンテストなどでいい成績を上げれば、ディストリクト(例えば日本)大会、世界大会に出場し、その年度の頂点を目指すことができる。私はクラブを代表して大きな大会に出場した経験は残念ながらないが、そこを目指す会員は多い。

 英語習得に関心がある人はぜひ、ネットで「トーストマスターズ」で調べ自分の英語能力にとりあえずは合致し、メンバーも気が合いそうだと思うクラブを選択するのがいいと思う。このためには、いくつかのクラブに連絡し、とりあえず「ゲスト」として参加するのが一番だと思う。

 私はこのTMの会への参加のほか、NHKのラジオ講座「実践ビジネス英語」を聴き、またNYTの国際版を自宅で購読(残念ながら朝日新聞の扱い)、好きなコラムニストの生きた英語を鑑賞するのを楽しみにしている。これが英語との付き合いだ。

 英語を多少とも自由に使えれば、実用面でも便利だ。読む▽書く▽話す▽聞くが標準的な実用的な能力とすれば、私の能力は、典型的なこの順番。海外勤務経験がないからだろう。ただそれでも役に立つ。例えば、10年ほど前、「ウルフィーからの手紙」というアメリカの長編反戦小説を翻訳出版したことがあるし、この作者とメールをやりとり、アメリカや日本の政治や社会、文化問題など論議するなど様々な楽しみもある。

 また坂田財団に勤務中は、アジアの記者を日本に招き、交流を図るという仕事があったが、これも事前のメールのやりとりから、日本滞在中での案内などすべて英語が共通語だった。私が財団に在任中はベトナム、中国、インドネシア、フィリピン、台湾、ビルマ、韓国などから招待したが、全部英語。韓国などの記者と会話する際、こんなに近い相手国の言葉をお互い使えず、英語が共通語になっていること自体に深い違和感を覚えつつ、英語は強い言語だな、と思う。

(元編集局・滝沢 岩雄)

 

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