閑・感・観~寄稿コーナー~
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試行錯誤で取り組んだ大学のオンライン授業(近藤 伸二)

2020.08.09

閑・感・観~寄稿コーナー~

 大阪府茨木市にある追手門学院大学経済学部の教員になって2020年4月で7年目を迎えましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で学生は構内立ち入り禁止となり、春学期は一部の実習系を除いて全てオンライン授業に切り替わりました。もちろん初めての体験です。悪戦苦闘の連続でしたが、何とか乗り切り、秋学期は対面授業とオンライン授業の併用となる予定です。

 大学によってはオンライン授業に習熟するため、春学期の授業開始を1カ月ほど遅らせたところもあったようですが、本学はスケジュール通り4月9日から始めました。19年度から新入生全員にパソコン所持を義務付けていたことや、2、3年前から授業用のウェブサイトの活用が進んでいたことなどが、いち早くスタートを切れた原因です。

 とはいえ、しばらくは試行錯誤の状態でした。オンライン授業には、動画などを作成してウェブサイトにアップする「オンデマンド型」と、WebexやZoomなどのウェブ会議システムを使用する「ライブ型」があります。それぞれ一長一短があり、当初は受講者の多い講義型の授業はオンデマンド型で、ゼミなど人数の少ない演習系の授業はライブ型で行っていました。

 オンデマンド型は資料作りに大きな労力を費やします。5月の連休明けごろまで、パソコンの前でしゃべりながら、音声付きパワーポイントのスライド作成に明け暮れていました。そのうち、300人近い大人数の授業でもライブ型で実施できるめどが立ち、途中からライブ型に移行しました。

 ライブ型で気掛かりなのは、学生1人1人の自宅の通信環境が異なることです。初めの頃はなかなか授業に参加できなかったり、参加しても音声が出なかったりする学生もいました。私は大学の研究室で授業を行っていたのですが、なぜか突然私の声が学生に聞こえなくなり、授業が中断してしまったこともありました。

 そうした設備・機器の問題以上に苦労したのが、学生の反応がつかみにくかった点です。対面の時は、教室内を回って学生とやり取りすればいいのですが、オンラインではできません。質疑などはチャット機能を使って行ったものの、受講生がどの程度理解しているのか判断しにくい面がありました。

 授業では、こちらから顔が見えるように、可能ならカメラをオンにするよう呼び掛けました。でも、学生はあまりオンにしたがりませんでした。パケット代を気にしたり、自宅をのぞかれたくないという心理が働いたりしたようですが、タイルのような四角いボックスが並ぶパソコン画面を相手に話していると、対面では感じなかった疲労感を覚えたものです。

 「新入生演習」という1年生相手の少人数授業は全員、3年生対象のゼミも多くの学生とは直接会ったことがないので、意思疎通には手間取りました。通常なら授業中や空き時間に実施する学修相談なども、なかなか行えないのが悩ましい点でした。

 ただ、授業の回数を重ねるうちに、こちらも学生も慣れてきて、比較的スムーズに進行することができるようになってきました。演習系の授業では、グループワークにも取り組み、グループごとに協力してパワーポイントの資料を作成し、それを掲示しながらプレゼンテーションをしました。グループワークを経験すると連帯感が生まれて孤立感が和らぐのか、メンバーで息を合わせながら、張り切って発表する姿が印象的でした。

 オンライン授業をやってみて浮かんだ反省点は、大規模授業では対面よりペースが速くなりがちだったことです。前述したように学生の反応がつかみにくかったこともあり、つい急いで先に進むというケースが少なくありませんでした。

 学生に課すレポートなどの課題が多くなった点も挙げられます。最初は授業がどう展開するか読みにくかったので、対面の時よりも課題を増やし、結局それを15回通しました。学生はできるだけ鍛えた方がいいのも事実なのですが、大半の教員が課題を多めに与えたので、学生たちは「課題地獄」と言って、過剰感を抱いていたようです。もっとも、課題を採点してフィードバックする教員側の負担も大きく、正直言うと、教員にとっても「地獄」でした。

 秋学期は、対面とオンラインを組み合わせるのが大学の方針ですが、再びコロナウイルス感染が広がれば、春学期同様、全てオンラインとなる可能性もあります。

 近年の大学教育では、コロナ拡大前からオンライン授業や授業のIT化の必要性が叫ばれており、コロナによって一足飛びにその時代がやってきたというのが実感です。秋学期以降も、学生にとって「良い授業」とは何かを模索しながら、教壇に立ったり、パソコンに向かったりする毎日が続きそうです。

(元論説室・近藤 伸二)

 

研究室でオンライン授業の準備をする筆者
大学のオンライン授業の様子(追手門学院大学提供)