閑・感・観~寄稿コーナー~
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島で暮らす(8)漁師の仕事は多岐にわたる(元田 禎) 

2020.08.08

閑・感・観~寄稿コーナー~

 ♪波の谷間に命の花が ふたつ並んで咲いている 兄弟船は親父のかたみ~ 演歌歌手、鳥羽一郎のヒット曲「兄弟船」が好きです。演歌はよう歌いませんが、あの迫力ある歌声を聴くと、「僕も漁師になったんじゃなぁ」って実感します。

  漁師はきれい好きです。とりわけ、「命」である船のメンテナンスは小まめに行っています。漁に出るたび、仕事の終いには、海水でデッキにこびりついた汚れを必ず落とす。船底の汚れは、当然ながら船を陸(おか)に揚げなければ落とせないので、頻繁にはできません。1年に2回ほどしかしないそうです。

  少し古い話ですが、僕が勤めるマルコ水産(広島県福山市内海町)は2020年6月15日、所有する小型の伝馬船3隻を陸に揚げ、船底にペンキを塗り直す作業をしました。 船底に汚れが付くと、スピードが格段に落ちる。また、ペンキを塗り直さないと、船自体も劣化が進みます。だから、とっても重要な作業です。業者に頼むと、うん万円では済みません。漁師は何でも自分たちでやります。

  船外機の付いた伝馬船の重さは最大で1トンほど。ガラス繊維の強化プラスチックで出来たFRP船で、「デカイ割には軽い」という印象を持ちました。 船底に布製のロープを通し、フォークリフトに設置したクレーンで海から吊り揚げる。兼田敏信社長に「リフトでこんなデカイ船をよく揚げられますね」と聞くと、「船は思ったばぁ(ほど)重くない。リフトは結構重いんでぇ」と説明してくれました。

  ドラム缶の上に木を噛ませ、その上に船を置く。そして、汚れを落とした船底を、長男寿敏さん、次男純次さん、先輩の村上泰弘さんの4人で塗り込めました。 船の底を下から見上げながら、ブラウン系のペンキを、ローラー状のスポンジを使って広げていく。

 「元田さん、ローラーにはまんべんなくペンキ塗って。でないと、まだら模様になって、塗り直さんといけんけえ」と寿敏さん。僕はペンキを溶かしたシンナーの臭いに酔いを感じながら、まあ、何とか塗り終えました。随分やり直したけれど。 漁師の仕事は、本当に多岐にわたり、先輩の仕事のスピードに、僕はついていくのがやっとでした。ペンキを塗り終えた伝馬船に翌日乗ると、明らかにスピードが違う。ちょっと感動ものでした。

(元広島支局・元田 禎)

 

汚れを落とした船底にペンキを塗り込む先輩漁師。メンテナンスも大切な仕事の一つ。