閑・感・観~寄稿コーナー~
SALON

日本語教師の世界でコロナを経験して(香取 泰行) 

2020.07.13

閑・感・観~寄稿コーナー~

 2019年9月に毎日新聞社を早期退職してから、大阪、神戸、京都の日本語学校で、海外から来た若い人たちに日本語を教えています。コロナ禍で日本語教育の現場も大きな影響を受けており、ゴールデンウィーク明けまでほとんどの学校が新学期の授業に入れませんでした。そうした中、4月から、自宅のパソコンをネットにつないで、オンラインの授業をしています。

 使っているのは、外出自粛の在宅勤務で一躍注目されたオンライン会議ツール「zoom(ズーム)」です。授業のために新たに購入したのは、ヘッドセット(マイク付きヘッドホン)とラン用ケーブルぐらいですが、ヘッドセットは3、4月は在宅勤務がブームのようになってどこも在庫切れで、私は毎日、ネットで探してようやく見つけました(それでも手元に届くまで3週間かかりました)。

 授業は学校のカリキュラムに従って行いますが、学校側も教師の私たちもほとんど初めての経験なので、知り合いの先生同士で家のパソコンをつないで互いに模擬授業のようなことをするなど、手探りでのスタートでした。

 「パソコンで授業ができるのだろうか」と不安もありましたし、学生の側のネット環境の問題や、学生の様子がパソコンの画面と音声でしか分からないなど勝手の違うこともたくさんありました。しかし、始めてみると、「思ったより普通に授業ができるな」というのが正直な感想です。同僚の先生たちに聞いても、同じように感じた方が多かったように思います。

 世界を見てもコロナは終息したわけではなく、この原稿を書いている7月中旬の時点でも、新しい学生の入国のめどは立たっていないようです。しかし現場では教室での授業も再開し、まだ完全ではないものの、以前と同じようなかたちに少しずつ戻ってきています。

 今回のコロナ禍では、「運」と「縁」ということを強く感じました。もし半年早くコロナの感染が始まっていたら、今のように日本語教師の仕事を始めることはできなかったと思います。

 また、教えている学校についても、授業ができず先行きの見えないなか、非常勤で勤務する私たちに在宅での仕事を回してくれたり、心配して声をかけてくれたところがほとんどでした。危機のときこそ、相手の本当の姿が見えるものだと思いました。

 日本語教師は授業の準備などに追われて日々大変ですが、日本にいていろんな国の若者と触れ合える面白い仕事です。「運」良くこの仕事を始められ、いい学校との「縁」に恵まれて、ここまでやって来られたのだと、感謝しています。

 (元編集局、香取泰行)

 

自宅でのオンライン授業の様子。昔の子供部屋を使ってます。