閑・感・観~寄稿コーナー~
SALON

「こども本の森」にかかわって(朝野 富三)

2020.07.07

閑・感・観~寄稿コーナー~

 大阪が生んだ世界的な建築家の安藤忠雄さん(78)がつくった「こども本の森 中之島」が、新型コロナの影響で当初より四カ月遅れで7月5日に開館しました。計画段階からかかわってきたので、今はほっと一息ついています。

 安藤さんが計画を公表したのは3年前。私に「手伝わへんか」と声がかかり、ずっとそばで彼の進め方を見てきました。施設のコンセプトづくりから運営を委託する業者選定、施設の寄贈先である大阪市との調整などにあたってきました。

 中之島公会堂近くに建った鉄筋コンクリート3階建て延べ約800平方メートルの弓なりにカーブした建物の建設費約7億円は全額、安藤さんが負担しています。年間5000万円の運営費もすべて安藤さんの呼び掛けによる寄付でまかなうことになり、すでに20年分を確保したのだから、「すごい!」の一語に尽きます。

 寄付に応じてくれた企業は610社にのぼります。しかし今の世の中、進んで寄付する企業なんかあるはずはありません。そこは、すべて安藤さんの“腕力”によるもので、近くでそれを見ていただけに、なみなみならぬ子どもへの想いと、大阪への誇りを感じました。

 安藤さんと知り合ったのは、私が社会部長の時で、阪神大震災が起き、毎日新聞大阪本社が取り組んだ震災救援事業で連携しました。今も残っている神戸市中央区のHAT神戸にあるなぎさ公園の「ゆめ・きずな」モニュメントはその一つです。

 世界子ども救援キャンペーンでネパールに子ども病院をつくることにした時には、病院の設計を無償で引き受けてくれたのも安藤さんでした。それ以外でも、さまざまなことでお世話になっています。

 『日本沈没』の作家小松左京さんと安藤さんの対談を本社で企画したことがあります。長時間の対談でしたが、謝礼もなく、紅茶とケーキを出しただけでしたが、帰りしな、安藤さんが「毎日新聞は貧乏だけど、あたたかくていい会社だよな」と私につぶやいた言葉を今も覚えています。

 本の森の開館式に私も出席しました。名誉館長はノーベル賞の山中伸弥教授で、多くのマスコミが取材に来て、早くも大阪の新しい名所になろうとしています。しばらくは、私は施設に足を運ぶことになりそうですが、子どもたちの笑顔が何よりの報酬です。蔵書は1万8000冊。みなさんにもぜひ一度、と言いたいところですが、当面は予約制ですので、ネットで予約してください。

(元編集局長・朝野 富三)