閑・感・観~寄稿コーナー~
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島で暮らす(5)定置網の高い技術、さっぱり理解出来ず(元田 禎)

2020.04.03

閑・感・観~寄稿コーナー~

  海苔養殖は3月初旬に終わり、田島漁協(広島県福山市内海町)の漁師たちは、同月下旬から定置網漁に取り組んでいます。長方形の升綱(ますづな)に網を張る海苔養殖と違い、定置網漁の仕掛けは複雑で、僕は何度も船上から作業を眺めたのですが、先輩漁師の仕事内容がさっぱり理解出来ませんでした。
  マルコ水産(兼田敏信社長)は、3軒の漁師と一緒に仕掛けを設置しました。魚は障害物の「道網」に当たると、深い沖へと泳ぐ性質があり、回遊する「運動場」の先に造った「箱」に入る仕組みです。箱の先には逆戻りしにくい三つの袋があり、入り込んだ魚を生け捕りにします。
  仕掛けには5、6隻の船が必要なため、1軒の漁師では出来ません。綱の設置、網張り、海底への錨(いかり)投入などをお互いが協力し合って進めるのですが、僕が感心したのは、「自分が今何をすべきなのか」を、漁師らは完全に理解していることでした。
   波の高さ、風の強さを計算に入れ、大海原を船が走る。兼田社長に「みなさん、自分の次の行動がよく分かりますね」と愚問を投げ掛ける僕。「そりゃのう、いちいち説明する暇はなぁで」と苦笑いする社長。「いやー、漁師は頭が悪いと務まらない」と思った次第です。

 商売(網揚げ)は、ほぼ毎日行われ、何度も船に乗りました。高い技術が求められるため、僕に出来ることは、動画・写真撮影と、袋から出された魚をデッキのいけすに移すことぐらい。捕れる魚は日々違っていて、初日はスズキ、翌日はボラが圧倒的でした。最近はウマヅラハゲ(カワハギ)、イカが多い。5キロを超えたタイを初めて見た僕は大興奮。15キロもあるアカエイも掛かった日があったなぁ。
   穫した魚は、すぐに仲買業者に出荷します。自分で売値が決められない漁師は、やはり立場が弱い。「えっ、これだけ捕れてその値段か」と正直思います。漁業を守るための努力は、漁師だけの力ではいかんともし難い。日々、実感することです。
    新鮮な魚は、マルコの昼食にしばしば登場します。まだまだ駆け出しですが、「漁師になって良かった」と思う瞬間です。

元広島支局、元田 禎)

 

定置網漁の仕掛けを進める漁師たち。息の合った作業に、僕はただただ感心した
網に掛かった魚を船に引き揚げる兼田社長の次男純次さん