閑・感・観~寄稿コーナー~
SALON

ベトナムを訪ねて(黒田 耕太郎)

2020.01.17

閑・感・観~寄稿コーナー~

 2019年12月25日から20年1月8日までの15日間、首都ハノイを中心に、ベトナム国内を夫婦で旅する機会を得た。ハノイに住む長男家族と会うのが第一の目的だったが、息子の世話であちこち旅することができた。ベトナムに関心のある方、これから旅を考えられている方に少しでも参考になればと、体験をまとめてみた。

【ハノイ】

 まずびっくりさせられたのが、市内の道路でのバイクと自動車の氾濫であった。百聞は一見に如かず。写真をご覧ください。

◆車間距離は30センチ

 パック旅行だと、市内をバスで行き来することが多いので気付きにくいかもしれないが、私たちはほとんどを義娘が手配してくれたタクシーで移動したので、その実情を肌で感じることができた。しかも家族で移動の時、小生は助手席に座ることが多かったので、その体験は強烈だった。

 とにかく、車間距離が日本では考えられないほど短いのだ。前後左右とも30センチあれば、長い方。とても無理と思うのに、警笛を鳴らしながら車線を変更して車列に突っ込んで行く。そこへバイクが割り込む。当方は1分おきに、肝をつぶされ、何度「危ない」と叫んだことか。

 しかし、慣れてくると、ここにも、運転者同士の「信頼の原則」があることが分かってきた。まず、スピードを出さない。交通渋滞中は時速20キロ前後。急な車線変更はせず、必ず警笛を鳴らす。雨でもカッパ姿を乗せたバイクは少しも減らない。その交通の洪水には、いやでも国力の勢いを感じさせられた。

 半面、車の排気ガスによる空気の汚れはどうしようもない。ハノイで少しでも青空を見たのは、滞在約1週間のうち1日だけだった。ハノイに住んで4年の息子によると、ハノイ全体が盆地のようになっていて、めったに風が吹かない。それが汚れた空気の停滞の原因の一つだろうという。

 

ハノイの朝の出勤風景
ハノイの雨の交差点
ハノイには高層ビルが増えている

 

◆ホーチミンは今のベトナムの象徴

 のっけから悪口になったが、ハノイは、至る所に大小の湖が広がり、それを中心に商店街が伸びる人口約1千万人の大都市である。市街地は車の洪水だが、ホーチミン廟とそれを取り巻く広場を訪れると、それまでの騒がしさがウソのような静かな風格のある空間に包まれる。

 ベトナム戦争勝利の立役者、ホーチミン・元国家主席はとにかく、今のベトナムのヒーローであり、象徴なのだろう。10種類近いお札(コインは存在しない)の写真は、すべてホーチミンの顔。

 かつての南ベトナムの首都、サイゴンは、ホーチミンと改名されて久しい。広場の中央にそびえ立つホーチミン廟の中には、今でもホーチミンの遺体が保存され、定期的にロシアで化粧直しされているとか。それを市民も観光客も拝観できる。ホーチミン自身は生前、死後のそういう扱いを希望しなかったというのだが。

 

ハノイ市内では、至る所で大小の湖に出会う
ホーチミン廟(正面の建物)
ハノイ市内の靴専門店

 

【フーコック島】

 最近日本でも人気が高まりつつあるリゾート地である。ベトナム最大の島ということだが、世界地図で見ると、点でしかない。南北に細長いベトナムの南部のさらに西端のカンボジア国境に近い海上に位置するから、日本からは当然、ホーチミン経由が近いが、私たちはハノイ訪問が先だったから、ハノイ空港の国内線から約2時間で、島に到着。

 3泊4日で、二つのホテルに宿泊したが、とにかく設備が新しく、気持ちが良い。二つ目のホテルは3階建ての家一軒を家族6人で借り切ったので、ビラ(villa=貸し別荘)と呼ぶ方が正しいのだろう。ビラの一軒一軒には水泳用のプールが付いており、目の前には砂浜が広がる。ビラの前の海岸一帯は宿泊者専用だから、人の姿は極めて少ない。

 年中気温28~30度の常夏の島である。白砂は粘土のようにキメ細かい。沖合約50メートルまでがブイとロープで囲まれた海は静かで、海水は澄んで、温かかった。幸い日没を見ることができた。ベトナムで海に沈む太陽を見られるのは、この島からだけだという。

◆世界最長の海上ケーブルカー

 淡路島にほぼ近い面積の島に、北から南へとリゾート化が急速に進みつつある。ビラとレストラン、市場などの間は、5、6人乗りの運転手付きカートで結ばれ、スマホで呼べばいつでも迎えに来てくれる。リゾート地の最先端を見せられる思いがした。地理、気候、治安上も申し分ないが、日本からの直行便はまだない。興味のある方は、インターネットで検索すると、ホテルの予約も可能だ。

 最近、隣接の島を空中で結ぶ世界最長(ギネス認定)の海上ケーブルカーが運航を始めており、私たちも乗った。終着点では、テーマパークが完成間近で、新しいリゾート地が誕生するのだろう。

 

ビラは、砂浜で専用ビーチにつながっている
各ビラには、水泳プールが併設されている
フーコック島の日の入り(2019年12月30日写す)

 

【ハロン湾】

 ベトナムは何と素晴らしい贈り物を、天からさずかったものか。その贈り物とは、ハロン湾に突き出た約1、600と伝えられる世界自然遺産認定の小島である。それをクルーズ船で巡るのが、ベトナム旅行の定番となっている。日帰り、1泊2日、2泊3日の3コースがあるが、息子は張り込んで2泊3日コースを予約してくれた。

 そのクルーズ船が大型化と最新鋭化を図っていることが、湾内を眺めると分かる。私たちが乗り込んだのも真新しい大型クルーズ船で、船体は4層に分かれ、4階は全面が展望休憩室、3階船首には水泳プール、2階船首にはゴルフのミニコースが設けられていた。各船室には、ダブルベッドに大きな湯ぶねと展望デッキ、トイレにはハノイのホテルにはなかったウォシュレットが完備していた。

◆島々縫い、海原に停泊、鍾乳洞を探索

 実は、クルーズ船はそれほど長い距離を走るわけではない。夜は小島に囲まれた比較的広い海原に停泊する。そして昼間は、乗船客は船と並走する大型モーターボートで小島の鍾乳洞を探検したり、白浜で泳いだり、ハロン湾でただ一つ人が住む島を自転車で探索するなどのプログラムが組まれている。

 ベトナム語でハロンのハ(ha)は「天下る」、ロン(long)は「竜(ドラゴン)」の意味。大昔、中国の大軍がベトナムに攻め込んだ。天から竜の親子が舞い降り、吐く炎で中国軍を焼き殺した。炎と一緒に吐き出された宝物が海に突き刺さり、今の小島群になったという。

 行けども、行けども尽きない小島は「墨絵の世界」で知られる中国の桂林と比較される。固い石灰岩で囲まれた水もない岩肌に、緑の木々がへばりつくように生える。最初は種もなかったはずなのに。数十万年、いや数百万年の年月の所産なのだろう。

 

墨絵の世界が広がるハロン湾
設備の整ったクルーズ船の船室
ハロン湾を航行する大型クルーズ船

 

(元総合デザイナー協会・黒田 耕太郎)