閑・感・観~寄稿コーナー~
SALON

人が「生きてる」国、ベトナム(北岡 宏輔)

2019.12.31

閑・感・観~寄稿コーナー~

 2019年6月に定年を迎え、12月下旬、人生初の海外旅行に行ってきました。30年来の同僚で親友の鈴江康二君(現在は校閲センター大阪CS)に誘われて、彼ゆかりのベトナムへ。今こうして原稿を書いている間も、エネルギッシュな下町の風情やメーターゲージの鉄道、メコン下りのエンジンボート、質素だけどおいしかった路上の朝ごはんを夢に見るようです。
 ツアーではないので、2人でホーチミン市内を中心に歩き回る毎日でしたが、会話も街の看板も私にとっては全く意味不明。暑いし、デコボコした歩道は歩きにくいし、物売りはしきりに寄ってくるし、何と言っても洪水のように走るバイクが怖い! なのに2日目にしてすっかりなじんでしまったのは、人々の何とも言えない優しさに触れることができたからだと思います。それを支えてくれたのは、長年ベトナム取材を続けている鈴江君の堪能な通訳でした。
 道端に椅子を置いてぼーっと座っているおっさん(これが多い)。日本だと「この人何してんの?」というところですが、道を聞くといたって親切。タバコが吸えるコーヒーショップを探し歩いていた時も「あそこはダメ。こっちの店ならタバコ大丈夫」。スーパーのレジものんびりしたもので、長い行列が遅々として進まなくても誰も文句を言いません。町をきれいに見せようなどという気はみじんもない様子で、どこへ行ってもほこりっぽくてごみごみしているけれど、人が「生きてる」国なんだなあとつくづく感じました。
 4日間の旅を終えて日本に戻ると、ピカピカの電車が時間通りに来る、水道をひねるとちゃんと水が出る、買い物をしたらきちんとお勘定をしてくれる、当たり前のことに改めて感謝すると同時に、歩きながらスマホをいじくっている若者たちが無機質な人種に思えて仕方ありません。
 しばらくリハビリに時間がかかりそうです。
(編集制作センター西部ラテグループCS・北岡 宏輔)