閑・感・観~寄稿コーナー~
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何故?私が太極拳(中堂 祐保)

2019.06.16

閑・感・観~寄稿コーナー~

 太極拳は2010年6月に始めたのでもう9年のキャリアになる。太極拳など全く縁がなかったのに、息子に勧められて京都市武道センターの教室に通い始めた。浜松に住む息子は長い武道歴があり、90歳を超えた母を自宅介護する嫁の姿を見て「介護に携わる人間は絶えず新しい気を取り入れないと心身がもたない。お父さんが太極拳を習って介護する母に教えれば・・・」と言われ、半信半疑で門を叩いた。

 私たち夫婦は幸いにも健康を損なうことなく高齢(92歳)の母を見送ったが、まだ宿題を抱えていた。自分は晩婚の上、幼児期の子どもを亡くしているので、1人っ子の息子家族のために出来る限り長く健康でいてやりたいという気持ちがずっとあったからだ。

 若い頃脊椎滑り症で入院したことがあり、その後遺症からか長距離歩くのが苦手だったが、太極拳を始めて数年たったころ、長距離の散歩をしても右足が痺れないのに気づいた。飛蚊症や静寂性耳鳴りなど高齢者にありがな症状はご多聞に漏れず現れていたが、冬季に血圧が高くなる高血圧症は影を潜めて、心配せずに済むようになった。太極拳を習う費用は、資格を取る受験料を除けばそれほど高くはなく、続けているうちに6級、5級、・・・1級、初段、2段とたて続けに検定試験に合格。2018年暮れの3段試験で始めて不合格を経験した。

 太極拳は種類が多くて分かりにくい。中国の古来から伝わる伝統拳、庶民の健康増進を図るため伝統拳を改良して考案された「簡化24式太極拳」、それにジャッキー・チェンやブルース・リーの映画でお馴染みのカンフーなどがあるが、私が今習っているのは普及版の「簡化24式太極拳」で、中国の公園などで大勢がしている、あのスローモーな動きの太極拳と思ってもらって良い。

 わが国で最も大きな組織の日本武術太極拳連盟が全国で教室を主宰し、検定試験はじめ競技会、講習会などを開催、会員数は約10万人と言われている。「簡化24式太極拳」は検定試験や競技会の中心種目として採用されており、これが段位認定や序列を決める採点基準になっているので、この種目は避けて通れない仕組みになっている。

 この「簡化24式太極拳」を簡単に説明すると、24種類ある型を繋ぎ合わせて編成されたプログラムを、決められた時間内にいかに上手に演じるかというもの。これを「套路(とうろ)」と呼び、この熟達度によって優劣がつく。3段の検定に落ちて始めてわかったことだが、検定試験2段までは愛好家を増やすための普及版として位置づけられているようで、無難に套路をこなしさえすれぼ合格するが、それより上位は指導者育成を目的にしているので、伝統拳の理論と体の使い方を理解し演舞しなければ不合格になる。多くの人がここで挫折を味わい、それ以上の段位取得を諦めているのが実情のようだ。

 「型」から入るのは他の「道」のつく稽古事と同じだが、太極拳は3段から「筋肉を使う運動」を辞めるよう求められ、体の中を巡る「気」を感じながらそれに身を委せるという指導に、内容が一変する。物心ついてから全く経験したことがないことを要求されても、イメージも湧かず、試行錯誤の連続。奥義の「壁」に絶望しかけていると、コツのようなものが示唆され、ただひたすらに練習を繰り返す。

 3段検定を目指して1年半。身に付けたものは、筋肉を使わずに動くために、肩甲骨と骨盤を連動させる動きや、体の緊張をほぐしたり集中力を高める逆腹式呼吸など。随意筋を使わないようにすると、足の裏が床にピタリとついて安定感が増し、感性も磨かれて柔らかい動きができるようになった。さらにこうした動きを手にすると、変化を察知しそれに対応できる力も増したように感じるから不思議だ。奥義を極めた達人が言う。「人間はじめ地球上の生き物はすべて小宇宙。地球を取り巻く大宇宙の摂理に従って生きることが健康の普遍的な原則。太極拳は自然から遠のいた生活を送る現代人に本来的なあり方を教えてくれ、同時に本来の力を取り戻させてくれる」と・・・。(中堂 祐保=元販売促進部)

 

    太極拳の様子