2023.02.23
先輩後輩
——毎日新聞大阪本社には、日中・太平洋戦争期に特派員が海外で撮影した写真・ネガが6万点以上、保管されています。写真を入稿・掲載、検閲の記録などとともに整理したアルバムも69冊あります。これらを「毎日戦中写真」と呼び、戦後80年の2025年に向け、デジタルアーカイブ化を進めています。
2022年618日、東京大学福武ホールで開かれた「デジタルアーカイブ」開発計画の発表会で配られたパンフレットにこうあった。
渡邉英徳・東京大大学院教授、貴志俊彦・京都大教授らとの共同研究で進められる事業だが、6万点の写真を守り通した最大の功績者が、1941(昭和16)年6月から終戦の翌46(昭和21)年まで大阪本社の写真部長を務めた高田正雄(1973年没74歳)である。
「写しとめた厖大なネガは、日本歴史の貴重な資料であり、私たちカメラマンの血のかよった分身である」
軍の焼却命令に従わなかった心境を、日報連(日本報道写真連盟)会報「報道写真」1962年2月号にこう書き残している。
この戦中写真が、「一億人の昭和史」シリーズ発行につながった。そして今回の創刊150周年記念事業「毎日戦中写真」アーカイブプロジェクトである。
日本写真協会も1966年6月1日の「写真の日」に「貴重なネガを守り通した」という理由で功労賞を贈っている。
高田さんは、立志伝中の写真部長だ。満10歳から大毎で働いている。夜学に通った。
カメラマンになったのは、1919(大正8)年印刷部写真製版場勤務になってからだ。この写真部記者列伝⑪で紹介した従軍カメラマン第1号・二瓶将が写真製版場の場長を務めていた。
「私の修業は、誰よりも早く出社して暗室の掃除、現像薬品の整備」。ときにカメラマンと取材に出掛けて、「ポンタキ」の下働き。二瓶将から直接写真の撮り方を教えられたのだろう。
そして1936(昭和11)年のベルリン五輪特派員となり、大活躍する。37歳だった。
大毎・東日の取材陣は、ベルリン支局長加藤三之雄、ロンドン支局長南條眞一、パリ特派員城戸又一の他、陸上の大島鎌吉ら5人の記者が各競技団体の役員として現地入りした。
しかし、カメラは高田1人である。夜間にまで及んだ棒高跳び決勝。「友情のメダル」大江季雄と西田修平選手の銀・銅メダルの表彰式も撮った。水泳では「前畑がんばれ」の放送で一躍有名になった女子200㍍平泳ぎ金の前畑秀子。男子200㍍平泳ぎ金の葉室鉄夫(のち大毎記者)銅の小池礼三。マラソンでは日の丸をつけて金メダルの孫基禎。
競技写真ばかりか、雑観写真もいっぱい撮っている。
8月1日の開会式を報じる号外は、朝日新聞と競争だった。撮影したフィルムを空路モスクワ→ウラル山麓スウェドロフスク→シベリア横断列車で満州(中国東北部)へ運び、そこから自社機で大阪へ運んだ。ベルリンから大阪まで1万余㌔、7日と18時間2分かかった。
欄外の日付は、昭和11年8月10日である。朝日新聞もこの日に号外を発行した。相討ちに終わった。題字下に「高田本社特派員撮影」とゴシック体の大活字が入っている。
高田特派員は、開会式でヒットラー総統を撮影している。
カメラマン時代の高田さんを「ニッカーにスポーティーな上着、鳥打帽姿もさっそうと毎日の写真を一人で背負う気概でした」と写真部の後輩石川忠行が社報の「故人を偲んで」に綴っている。
1939(昭和14)年写真部デスク→41年写真部長。54年に55歳定年退職後は、日報連理事として、アマチュアカメラマンの指導にあたっていた。
日報連は、1951(昭和26)年4月24日に発生した桜木町事故で、読者が投稿した炎上する電車の写真が1面トップを飾ったことをきっかけに、アマチュア写真家の組織化を図ろうと、その年の11月3日、文化の日に創設した。土門拳、木村伊兵衛、渡辺義雄らが理事となり、会員は3か月ほどで1万人を超えた。ニッポンの「N」に、赤・黄・青・紫のフィルターをあしらった日報連のバッジも人気だったという。残念ながら2021年3月31日解散した。
ネットで検索したら、毎日新聞が出版した『新日本大観』の表紙に京都の石庭を撮っていた。
(堤 哲)
=東京毎友会ホームページから2023年2月13日
(トップぺージ→随筆集)
https://www.maiyukai.com/essay#20230213
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