2022.12.21
閑・感・観~寄稿コーナー~
「15」日が赤色になった8月のカレンダーを取り出し、「なぜでしょうか」。修学旅行で東京から来た女子中学生たちに尋ねました。
「終戦記念日?」。誰かが小さな声で答えます。
「でも、戦争に負けた日が祝日なのはおかしいですよね。実は、韓国のカレンダーなんです。植民地支配から解放されたこの日は、祝日なんですね」
大津市の展示施設「渡来人歴史館」に勤務し、来館者にこうした説明をしています。在日コリアン2世で、近江渡来人倶楽部(くらぶ)代表の河炳俊(ハ・ビョン・ジュン)(74)が、日本と朝鮮半島の深い結び付きを知ってほしいと2006年に開設し、館長を務めています。「渡来」に焦点を当てた全国的にも珍しい施設です。
新しい知見を反映させ、21年末にリニューアルオープン。その準備段階から携わり、展示内容を一新しました。近現代は少しかじっていたものの、古代は勉強の日々です。来館者に質問されたり、会話を交わしたりして、逆に教えられています。そんな状況を下手な歌にすれば――。
古今とも一人で守る歴史館冷や汗絶えぬにわか「先生」
実は、朝鮮には幼少期の体験から偏見を持っていました。それが一変したのは2000年代初めに韓国映画『猟奇的な彼女』を見てから。言葉を学び始め、文化や歴史にも興味を持ち、今では、関連書籍を読みつつ、韓国映画・ドラマを見て、K―POPを聴き、キムチを食べる毎日です。1行1行精読した本はもうすぐ200冊になります。目標は1000冊。新聞記者時代にこうであれば、もう少し違った視点で原稿が書けたのになあ、と。現役記者の皆さんの奮闘を祈ります。
パネル展示では、ホモ・サピエンスの日本列島到来から始まり、古代から近現代まで「渡来」の歴史を紹介しています。写真や図式を多用し、平易な表現を心がけました。いわば入門編の施設です。大きな特徴は、中世以降、秀吉の朝鮮侵略(16世紀末)や植民地支配(1910〜45年)によって連れて来られるなどした人たちも、幅広く「渡来人」と捉えていることです。このため近現代は、学校で習う機会の少ない在日コリアンの歴史を詳しく紹介しています。
展示を見れば、日本人が列島から生まれ出たのではなく、大陸から渡ってきた人たちの子孫で成り立っていることがわかります。
日本人って、民族ってなんだろう。改めて考えてみませんか。
※「渡来人歴史館」(大津市梅林2の4の6)。077・525・3030。金〜日曜開館。10〜17時。一般入場料100円。JR大津駅から徒歩5分、国道1号沿い。現在、2種類のコンパクト年表を贈呈中。
毎日新聞朝刊滋賀面(2022年11月28日付)の博物館の紹介企画「名品手鑑」に寄稿しました。https://mainichi.jp/articles/20221128/ddl/k25/040/156000c
(元編集局・大澤 重人)