2022.06.20
先輩後輩
ロシアによるウクライナ侵攻が続いている。世界は衝撃を受けているが、プーチン政権はそもそも22年前に戦争の中から誕生した。ほぼ無名だったプーチン氏はエリツィン大統領の下で首相として第2次チェチェン紛争を始め、これを「テロとの戦い」と位置づけた。国民の支持を盛り上げ、2000年の大統領初当選につなげたのである。
プーチン氏は、モスクワなどでの共同住宅連続爆破テロをチェチェンのイスラム原理主義勢力の犯行と断定し、開戦の口実とした。だが、一連のテロはロシアの諜報・治安機関「連邦保安庁」(FSB)による偽装工作との疑いもある。いわゆる「偽旗作戦」との見方だ。FSBは、プーチン氏がかつて所属したソ連の「国家保安委員会」(KGB)の後継組織である。
チェチェンはロシアからの独立を求め、2度の紛争を経験した。第2次紛争での無差別攻撃を経て、プーチン氏は子飼いというべき地元の親露派指導者カディロフ親子をチェチェンのトップに相次いで据えた(父アフマト氏は04年に爆弾テロで死亡。息子ラムザン氏は07年からトップの首長の地位にある)。プーチン氏が支えるカディロフ親子によって、チェチェンは親ロシア、親プーチンの強権独裁的な地域に作りかえられた。独立を希求した人々は欧州諸国へ逃れ、今も故郷へは戻れないままだ。
力によるチェチェン改造はいま、ロシア軍が占領したウクライナ東部や南部で再現されている。武力を背景として現地を親露派地域に作りかえる動きだ。過去にチェチェンやウクライナ南部クリミア半島(14年にロシアが占領)で起きたことが繰り返されている。ウクライナ人の多くがロシアへの徹底抗戦を支持する背景には、ロシアに国と社会を破壊されることへの強い危機感がある。
筆者はモスクワ特派員だった15年夏にチェチェンを現地取材した。本書では、親露派地域となったチェチェンのゆがんだ現状や、それがロシア全体に与える影響を描いた。さらに長期化したプーチン政権の今後にも考察を進めた。本書は、今回のロシア・ウクライナ戦争勃発の約半年前に出版されたものだが、ロシアの行動パターンやウクライナで起きている事態を深く理解する一助になると自負している。
なお、今回の戦争の伏線となった14年以降のウクライナ危機については、拙著『ルポ プーチンの戦争――「皇帝」はなぜウクライナを狙ったのか』(筑摩選書、18年刊)も参照頂ければ幸いだ。
(真野 森作)
『ポスト・プーチン論序説 「チェチェン化」するロシア』は東洋書店新社、2021年9月刊)ISBN978-4-7734-2043-2 定価2300円+税
真野森作(まの・しんさく)さんは2001年、毎日新聞入社。北海道支社報道部、東京社会部、外信部、ロシア留学を経て、13年秋~17年春にモスクワ特派員。大阪経済部、外信部を経て、20年春からカイロ特派員。ロシアの侵攻前後、ウクライナからの生々しい報道にも携わっている。
=東京毎友会のホームページから2022年6月17日
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