2021.06.21
先輩後輩
——2012年、私は、東京・竹橋の毎日新聞東京本社で色あせた一枚の写真に出会った。若いころの父や、かすかな記憶に残る親戚たちに似た顔立ちに、懐かしささえ感じた。それが、私の曽祖父の弟、伊藤清六(1907~1945)だった。
——清六の存在を初めて知ったのは、私の毎日新聞入社が決まった2004年のことだ。父が「昔、毎日新聞にいて、フィリピンで戦死した親戚がいる」と教えてくれた。
——2011年、私は東京本社の資料を管理する情報調査部に配属された。写真は情報調査部の、社員の顔写真を収めたキャビネットにあった。「本社員 伊藤清六」。70年近くも前に亡くなった親戚の写真が、こんなにも身近に眠っていたことが不思議に思えた。
——ある日、ジャーナリズム関係の本が並んだ書棚に、ぼろぼろになった本を見つけた。それは、1952年に毎日新聞社が出版した物故社員の追悼冊子だった。ページをめくると、「伊藤清六」の名前があった。私は、その人生に一気に引き込まれた。
——清六は戦前に農政記者として働いていたが、戦争末期の1944年、毎日新聞社がフィリピンで経営していた「マニラ新聞」に取材部長として出向し、戦局が悪化するとルソン島の山中で日本兵のために陣中新聞を作っていた。最期は、多くの仲間とともに山中をさまよい、餓死するという悲惨な結末だった。戦時中にフィリピンで死亡した毎日新聞の関係者は56人。死亡時の詳細が不明な人も多いという。
2020年7月~8月に毎日新聞に掲載され、第26回平和・協同ジャーナリスト基金賞・奨励賞と第15回疋田桂一郎賞を受賞している。
著者・伊藤絵理子さんは1979年生まれ。2005年入社。仙台支局、経済部、情報調査部、「開かれた新聞委員会」事務局兼社会部、阪神支局を経て、現在東京本社コンテンツ編成センター勤務。
毎日新聞出版社、定価:1650円。
ISBN-10:4620326860 ISBN-13:978-4620326863
(堤 哲)
=東京毎友会のホームページから2021年6月18日
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