2026.05.16
閑・感・観~寄稿コーナー~
マレーシア周辺の国々の立ち位置について、学級運営に例えた面白い表現があります。小柄だけれど超優秀な級長のシンガポール、クラスのムードメーカー的存在のタイ、芸術家肌でややつかみどころのないインドネシア。それに対しマレーシアはどう例えられているでしょうか?
そのヒントとなる、興味深いニュースがあります。今年(2026年)4月、ホルムズ海峡の緊張が高まる中、インドネシアの財務大臣が「マラッカ海峡でも通行料を徴収してはどうか」という趣旨の提案をしたと報じられました。シンガポールとマレーシアなどマラッカ海峡とのつながりが深い東南アジアの国々から総スカンをくらったのですが、先ほどの例えのポジションがわかるエピソードでした。

実際、マラッカ海峡が通行料徴収、さらに万が一閉鎖のような事態になれば、世界経済への影響はホルムズ海峡を凌ぐとも言われています。
マラッカ海峡はマレーシアの歴史を紐解く上で非常に重要ですが、現在の首都クアラルンプール(KL)は内陸にかなり入ったところにあります。これはKLが錫鉱山から発展した街だからで、第一次、第二次の世界大戦を通じ、錫は戦車や車、缶詰などに不可欠な戦略資源でした。日本軍がマレー半島へ進出したのも、宗主国であった英国が死守しようとしたのも、すべては錫が鍵を握っていました。
やはり東南アジアをみる時、忘れてはならないのが、旧宗主国の影響です。マラッカではなく、KLを拠点にしたのも、英国の思惑が強かったようです。マラッカ海峡は基本的に水深が浅く、タンカーのような大型船には難所と言われています。マラッカ海峡がスンダ大陸の大陸棚上に位置していることが関係しているのですが、その大陸棚の端にあるのがシンガポールです。マレーシア半島の先端でもあり、海流の影響にもより、水深が確保され、英国的には、シンガポールを港、KLは内陸と役割を分けやすかったようです。
ちなみにシンガポールは、マレーシアの独立後、マレー系住民優遇政策に反発した中華系住民が建国したという流れがあります。現在は、ジョホール・シンガポール経済特別区(JS-SEZ)を通じ、連携を図っています。
そうした植民地時代の影響は、現在も英国旧植民地でつくる「コモンウェルス」という協力関係につながっています。例えばレアアース(希土類)。マレーシアは、現在レアアースを中国以外で唯一商業精製できる国で、これはオーストラリア企業との連携なのですが、このようにコモンウェルス内の協力関係は多くみられます。
また最近、レアアースと並んでマレーシアが世界的な注目を集めているのが、大型データセンター(DC)の拠点としての役割です。DCは海底ケーブルの敷設ルートと密接に関係しており、アジアの重要拠点である日本と東南アジア諸国を結ぶ戦略的要衝として、現在、DC建設ラッシュに沸いています。

さらにマレーシアはASEAN(東南アジア諸国連合)の主要メンバーであるのに加え、同じイスラム圏かつ石油産出国として湾岸諸国とも良好な関係を保っています。一方で、ロシアや中国などでつくる経済協力グループ「BRICS」にも、2024年からパートナー国として名を連ねています。
こうしたことから、マレーシアはやや地味で派手さはないものの、要所を確実に押さえ可能性を秘めた「副級長タイプ」に例えられています。現地在住の日本人の間で、言い得て妙と納得されているのも、その本質を突いているからでしょう。着実に歩みを進めるこの国の可能性に、日本でももう少し注目されてもいいのではないかと感じています。
(元広告局、大道寺峰子)
最近の投稿